はじめに

世界中の金融市場関係者が中国経済の先行きに神経を尖らせています。

日本の国会に相当する中国の全国人民代表大会(全人代)が3月5日から11日間の日程で開幕しました。李克強(リー・クォーチャン)首相は同日、政府活動報告を行い、2019年の経済成長率目標を「6~6.5%」と2年ぶりに下げました。

2018年の目標は「6.5%前後」だったのに対し、実質成長率は6.6%。前年実績(6.8%)を下回って着地しました。中でも同年10~12月期は6.4%にとどまり、同7~9月期の6.5%から伸び率が縮小していました。2019年目標の引き下げは、こうした減速傾向を反映したものです。


“先行指標”は3年ぶりの低水準

中国経済をめぐっては米国との貿易摩擦の影響が懸念されていますが、2018年の成長鈍化はむしろ、過剰債務の削減が主因とみられます。

同国は2008年に起きたリーマンショックを受けて、4兆元規模の投資を含めた大規模な景気刺激策を実施。大盤振る舞いの結果、「国の借金」が大幅に膨れ上がりました。現在はその整理に伴う金融引き締め効果が顕在化し、減速感が台頭している状況といえるでしょう。

むろん、米中貿易戦争も成長にブレーキがかかった一因であるのは疑いないところでしょう。

金融市場の関係者が重視する指標の1つが、製造業の購買担当者景況(景気)指数(PMI)。製造業の購買担当者に新規受注や生産、雇用などの状況についてアンケート調査を実施し、回答を指数化したものです。景気の現状を敏感に反映するだけでなく、“先行指標”としての側面も有する指数とされています。

同指数は0から100までの数値で示され、通常「50」が景気動向を占う分岐点と位置付けられています。つまり、50を上回ると景況感が好転し、逆に下回れば悪化をそれぞれ意味するというわけです。

中国の製造業PMI

中国では、メディアグループの財新と英国の大手金融情報会社のマークイットが共同で調査・算出。中国国家統計局も発表しています。

このうち、国家統計局が公表している製造業PMIを見ると、2018年11月から2019年2月まで3ヵ月連続で50を下回っています。2019年2月には49.2となり、2016年2月以来3年ぶりの低水準へ落ち込みました(上図)。

東レは3割安、コマツは4割安

「6~6.5%」という2019年の成長率目標は、市場の事前予想通りの数字。「先進国クラブ」などと称される経済協力開発機構(OECD)が3月6日に公表した同国の成長率見通しも、6.2%と目標の範囲内に収まっています。

李首相は6%割れを回避しようと、2兆元規模の減税などの景気刺激策を打ち出しましたが、世界の金融市場はこうした対策などもある程度、織り込んでしまっていた感があります。日本株市場で日経平均株価の上値が重くなっているのを見ると、米中貿易摩擦の悪影響深刻化に対する懸念も払拭されるには至っていないように見えます。

特に気掛かりなのが、「中国関連銘柄」の値動きです。同国でも積極的にビジネスを展開する関連株の代表として挙げられるのが、炭素繊維の航空機の供給などで世界的に知られる東レや、建設機械メーカー大手のコマツ。両銘柄の株価はいずれも値下がりが長期化しています。

東レは2017年11月に1,151.5円高値を付けた後、下落。3月7日終値は767.2円とピーク時を3割以上も下回っています。コマツも2018年1月に4,475円まで買い進まれて以降、冴えない展開が続いています。3月7日終値は2,657円。高値から4割強、値下がりしました。

中国株が反騰したワケ

一方、中国の株価指標の上海総合指数は2019年初から約24%上昇しています。同指数は2018年に25%の下落と弱さが目立っていただけに、年初からの反騰については「同国景気の持ち直しを先取りしている」との指摘もあります。

ただ、これは米国の利上げ停止を好感した面が大きいようにも思えます。同国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は2019年に入って、追加利上げの休止を示唆。これをきっかけに「新興国へ流れ込んでいた資金が米国へ還流する」との警戒感が後退し、株高につながったのではないでしょうか。

実際、OECDは2020年の経済成長率に関して、6.0%と一段の減速を予想しています。米中両国の貿易交渉の行方も依然、流動的。日本株相場は中国リスクなどを意識し、方向感の定まらない展開が続く可能性もありそうです。

<写真:ロイター/アフロ>

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