はじめに

本来よりも安い価格での売買、贈与税がかかることも

2.本来の価格よりも安い値段で義理の息子に土地を売ることができるのか
3.またそれらのやりとりが発生することによって、贈与税・相続税などの税金はどれくらい発生するのか

売買金額をいくらにするのかは当事者間の自由ですので、本来の価格よりも安い価格で売買する契約それ自体は可能です。ですが、ご認識の通り税務上の問題があり、著しく低い金額の対価(1000万円)で財産を譲り受けた場合には、通常の取引価額に相当する金額(少なくても2000万円以上)の差額について、義理の父親から贈与により取得したものと見なされてしまいます。

贈与税には、一般税率と特例税率があります。親子間の贈与は、特例税率で少し税額が少なくなりますが、直系尊属(祖父母や父母など)ではない義理の父親からの贈与であると、一般税率になります。およそ1000万円が贈与相当額とすると、(1000万円-基礎控除110万円)×40%-125万円 という計算で、231万円の贈与税が掛かる計算となります。

なお、ここで示した「通常の取引価額」とは、イメージとしては利害が対立する第三者に売却するとしたらいくらになるかということですが、絶対的な判定基準はありません。親族間での不動産売買では、通常は公示地価が売買金額に近く、相続税評価や固定資産税は売買時価より低く、一般的には相続税評価80%や固定資産税70%などと言われます。これらから大よその地価の見当をつけたり、不動産会社に売却価格の見積もりをもらったり、評価が難しい土地の場合は不動産鑑定士から鑑定評価をしてもらい検討します。また、「著しく低い金額」がどの程度であると“著しい”のかも、明確な基準は設定されていません。

親族間のみなし贈与について裁判になった判決(平成19年8月23日東京地裁)では、相続税評価額が公示地価と同水準の約80%の価格での売買に贈与税が課せられなかったという判例があり、実務上は1つの目安とされています。今回は倍以上の差額があるので、このままでは贈与税が掛かってしまう可能性は高いと思われます。

年110万円ずつの贈与で、贈与税がかからない方法も

銀行からのローンの借り入れは可能なものとして、贈与税が掛からないような解決法をいくつかのパターンで考えてみましょう。

ご相談にあるような「本来よりも安い価格で、かつ税金を抑えたかたちで売買する方法」といううまい話はなかなか難しいかもしれませんが、シンプルな解決方法として、土地の評価額の1000万円分の持ち分を譲り受けるということが考えられます。ご質問者のご年齢は30代前半で義理の父親もまだまだ元気な年齢だと思われますので、年間110万円までは贈与税が掛かりませんから、年間110万ずつ土地の持ち分を贈与してもらっていくということもできると思われます。

その場合、毎年その都度、贈与の契約書を作成し、不動産登記も毎年持分を変更していくことが望ましい方法です。ただ、銀行のローンとの関係がありますので、担保設定や連帯保証をどうするかなど、義理の父親や金融機関と調整が必要となるでしょう。

義理のご両親が、仮に相続税の課税があまり心配ない財産状況でしたら、残りの土地は相続時に相続するという選択肢もあるでしょう(その際は遺言を残しておいてもらうと相続人間で揉める可能性も減ります)。

相続時精算課税制度も視野に入れて

また、前回のご相談(父親の前妻の子に財産を相続させたくない!取るべき手段は?)でも解説しましたが、「相続時精算課税」を使うことも考えられます。ただし、相続時精算課税は法定相続人のみが対象のため、ご質問者ではなく、法定相続人である奥様が土地の贈与を受ける必要があります。前提条件が変わってしまいますが、質問者が1000万円分を支払い、残りの分を奥様が贈与を受けるという組み合わせで問題なければ、選択肢として考えられます。

相続時精算課税制度は、簡単に説明すると、一定の手続き(※)をすることによって、複数年の合計で贈与額2500万円までは贈与税が掛からないというものです。ただし、2500万円を超えて生前贈与をすると、2500万円を超えた分の20%が贈与税額となります。相続時精算課税を選択し、贈与者である奥様の父親が亡くなったときには、相続時精算課税を適用して贈与を受けた財産を相続財産に加算して相続税の計算を行います。

ただし、毎年、暦年贈与ができる110万円の基礎控除の枠はなくなり、一度相続時精算課税を選択すると暦年課税には戻れませんので、110万円の暦年贈与とは並行できません。仮に、義理のご両親の財産の相続時の見込みが相続税の基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の人数)の範囲内であれば、相続時の課税もなく、土地の時価と売買との差額について贈与税等が掛からずに生前贈与を進めることができます。

(※)相続時精算課税をする際の手続きは、税務署に「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の戸籍の謄本などの一定の書類とともに贈与税の申告書に添付して提出する必要があります。また、自宅の名義が変わると登記変更が必要になります。詳しい説明や手続きについては、税理士や司法書士へ相談いただければと思います。

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