はじめに
以前の記事「日経平均株価が今年前半にも2万2000円台に回復し得る理由」で、今年の投資戦略として、前半はこれまでの売られ過ぎからの回復狙い(リバーサル戦略)、その後は成長機会を享受する投資戦略として新興国市場に期待、ということをお伝えしました。
そこで今回は、2018年末から回復基調にある世界の株式市場について、マクロの観点と主要市場の上位業種の騰落率の動きからその背景をひもといてみます。
景気は後退懸念が減速懸念に変化した
世界の株式市場が回復基調にある要因のひとつに、市場での話題が2018年秋以降の「景気後退懸念」(成長率がマイナスになる懸念)が、いつのまにか「景気減速懸念」(成長率はプラスだが、その速度が鈍化する懸念)に変化したことが考えられます。
主要株価の推移をみると、多くの市場で2018年年末ごろに安値をつけ、その後に回復しています。昨年末にかけての下落は、IMF(国際通貨基金)が先進国経済の成長率予測を下方修正したことや、“成長よりも質”をスローガンに掲げる中国がデレバレッジ(債務圧縮)政策を進めたものの、市場で国進民退(国営企業優遇、民間排除)と受け取られたこと、さらには、米中貿易摩擦で米国が中国の先端産業育成策に異を唱えたことなどから、市場参加者が世界経済に悲観的になった影響を受けたとみられます。
2019年に入ってからは、昨年の米中間選挙を念頭に中国への攻撃を強めていたトランプ政権が交渉重視に転換したことや、中国が預金準備率の引き下げや減税を含む財政拡大に転換し景気支援策を打ち出したことなどから、市場参加者の世界経済に対するセンチメント(投資家心理)は悪化から横ばい、もしくは改善に修正されていったのです。
株式市場の回復理由はさまざま
主要株価指数の時価総額上位3業種の騰落率をみると、地域別に回復した理由が明確になります。
中国の上海総合指数と深圳(深セン)総合指数では、その特徴の違いから要因が異なります。
上海総合指数は、金融の占める割合が大きく、資本財や素材といった従来型産業も多いため、デレバレッジ政策の影響を受けていました。しかし、政府がデレバレッジ政策の見直しを含めた景気支援策への方向転換が明確になったことで、今年2月以降は相対的に大きく回復したとみられます。
一方、深セン総合指数は、情報技術が多く、資本財や消費財でも新しいテクノロジー商品などを含む企業が多いため、米中貿易摩擦の影響を受けていました。昨年は深セン企業が米国から罰金を科せられるなど、企業利益に直接影響する懸念も高まり、警戒感が広がっていたのです。しかし、トランプ政権の交渉重視への転換により、回復したとみられます。
米国のS&P500指数は、インターネット関連企業などの情報技術が指数をけん引していますが、景気後退懸念やインターネット関連企業における社会的責任コストの増大懸念(プライバシー規制対策やデータ流出対応など)などの影響を受けていました。
また、製造業の比率が高い日本市場は景気後退懸念の影響を受け、欧州市場は金融システムへの懸念などの影響を受けていました。しかし、これらの市場は景気の後退懸念が減速懸念に変化したことで、回復に向かい始めたとみられます。
このように、地域によって変動要因はそれぞれ異なっているのです。
今年は、総じてリスク資産の安定が期待できそう
2019年は、景気の後退懸念が減速懸念に変化し、中国では景気支援策への期待が高まり、米国のインターネット企業はバリュエーション調整の一巡から回復への期待が高まっていくことになるでしょう。
加えて、利上げを継続してきた米国とユーロ圏は年内利上げの見送り姿勢を示すなど、主要国で景気に配慮する動きもあり、今年は総じてリスク資産の安定が期待できるとみています。
<文:チーフ・ストラテジスト 神山直樹 写真:ロイター/アフロ>