はじめに

なぜチケットの転売が禁止されるのか?

さて、ライブ市場では転売チケットの価格高騰が問題になっています。首都圏の金券ショップに行くと、有名アーティストのチケットが数万円の高価格で取引されています。

そのためスマホ認証や顔認証など、チケット購入者の新しい認証方法がテストされています。購入した人以外にチケットを転売しても使えないようにする技術が導入されようとしているのです。

それにしても、チケット転売がなぜこれほど問題になるのでしょう。そこには音楽市場が抱えるビジネスモデル上の理由があります。

AKB48や嵐の熱狂的なファンであれば、総選挙など重要なコンサートに「十万円払ってでも行きたい」という人は必ずいます。それを見越して先にチケットを購入し、転売で儲けようとするプロの「転売屋」が存在します。

「それは市場行為だから、なにも問題がないじゃないか」という考え方は、経済学的には自然です。実際、チケットの転売が公認されているアメリカでは入場者の1割が転売チケットを利用しています。では、なぜ日本ではダフ屋行為が禁止されているのでしょうか?

ダフ屋行為は法律ではなく、ほとんどの都市で条令によって禁止されています。以前は暴力団の資金源になっていることから禁止されていたのですが、最近、コンサート主催者が転売の撲滅に力をいれているのには別の理由があります。

それはライブのビジネスモデルとして、チケットだけでなく、来場者にグッズなどを販売することでライブ市場が大きくなってきていることです。

未来の「コト消費」拡大を狙って

1万円でチケットを購入したファンであれば、会場でさらに1万円分のグッズを買ってくれる可能性がありますが、チケット購入の際にすでに10万円を使ってしまうと会場についた頃にはファンの財布はすでにカラになってしまっている可能性があるわけです。

だからライブ主催者はチケットを定価で購入した状態で、ファンに会場に来てもらいたいのです。

ソニー・ミュージックエンタテインメントに代表される音楽企業はライブをきっかけに「コト消費」市場を拡大しようと目論んでいます。

ソニーはアメリカでは映画館のソニーシアターを全国展開していますが、デジタル化が進んだおかげでライブのデジタル映像をリアルタイムで全米配信することが技術的に可能になりました。

本当に特別なライブ、たとえば解散ライブや主力メンバーの脱退ライブなどであれば、コンサートを開催しているホール以外の都市にもリアルタイムで映像を配信することができます。それはどこかの都市で起きている「コト」を、ほかの都市でも消費できるようにする新たなビジネスチャンスです。

また、ソニーではライブ当日の映像を、ライブに訪れた人だけが1曲あたり数百円で購入できるサービスも開始しました。ライブの余韻消費を具体的な商品として提案する新しい試みです。

ライブという特別な体験の販売機会をさらに増やす方法、ライブに訪れた人にさらにたくさんのコト消費をしてもらう方法。それらの事業ビジョンを、音楽市場関係者たちはライブホールの数を増やす戦略の先に狙っているのです。

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