はじめに

“西のドラッグストアの雄”と言われている「コスモス薬品」。福岡地盤のドラッグストアで、店舗が西日本に集中しているため、関東ではまったく知られていませんが、日本生産性本部のサービス産業生産性協議会が公表している「日本版顧客満足度指数(JCSI)」のドラッグストア部門で、8年連続でトップを維持しています。

そのコスモス薬品が1月、満を持して関東への進出を表明。4月17日には、1号店が東京・広尾にオープンしました。

いったいなぜ、8年連続で高い顧客満足度を維持できているのでしょうか。開店したばかりの広尾店を訪ねてみました。


広尾にピンクの看板が出現

東京メトロ日比谷線の2番出口の隣、広尾橋交差点からすぐの場所に、一目でわかる鮮やかなピンクの店舗がありました。東京を代表する高級住宅街である広尾では、ひときわ目立つ外観です。

入り口付近では、店員が威勢の良い掛け声とともに、店の前を歩く人にチラシを配っています。店内をのぞいてみると、通常130円前後で売られている住居用洗剤がオープンしたばかりの広尾店では98円で売られています。

JCSIは原因分析まではしていないので、顧客満足度が高水準である理由を会社自身がどう分析しているのか聞いてみたところ、「価格の安さと接客の良さ、それに店の清潔さでは?」(同社広報)という、何とも平凡な答えが返ってきました。

ELP(エブリデイ・ロー・プライス)を標榜しているコスモス薬品。特売もタイムセールも一切せず、ポイントカードも15年も前に廃止しています。福岡県内の店舗では、2リットルのペットボトルの水を60円以下で売っているそうです。

特売やタイムセールを実施すれば、一時的に客を呼び寄せることはできますが、その分、売り場を設置したり元に戻したりする手間がかかります。第一、その時間に来られなかった顧客との間に不公平が生まれます。こうした思想に基づく“常時突出して安い価格”が高い顧客満足度の一因になっていると考えられます。

出店戦略にも販価抑制の工夫

出店戦略も独特です。コスモス薬品の店舗は基本的に郊外型の大型店です。需要があると見れば、店同士の“食い合い”も恐れず、大型店をどんどん出店します。顧客の利便性が上がるから、というのがその理由です。近年は郊外の大規模店舗だけでなく、都市部に小規模店舗の出店も始めています。

出店地域の広げ方も独特。福岡を出発点にして、隣接する都市にじわじわと出していくのです。会社が「インクポジット戦略」と自称している出店方法です。

普通、小売業は発祥の地周辺で成功すると、大都市圏への出店を目指します。しかし、コスモス薬品はまさにインクがじわじわ染みていくように、出店地域を東に向けて広げてきました。そのほうが商品の仕入れ効率も物流効率も良く、販売価格を安くできるからです。

このため、九州7県、四国4県、中国5県、近畿6県、北陸3県にはすべて出店していますが、東海は三重、岐阜、愛知まで。従来の出店方針通りなら、次は東京ではなく、静岡、山梨、長野、新潟のいずれかだったはずです。

しかし、愛知まで来れば、東京は目と鼻の先。居住人口が突出して多いうえ、インバウンド需要も旺盛なので、ポテンシャルから考えれば“飛び地”でも挑戦すべきマーケットという判断になったようです。5月中には東京の中野と西葛西にも出店を予定しています。

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