はじめに

中学受験の準備費用が一番かかる?

<モリの目>(森上展安)

タカの目さんの今回のお題はマネープラスのコラムに相応しい、そのものズバリのマネーのお話です。

「中学受験」をすると約200万と少々、中高一貫校に進学すると約600万というコストがかかりますが、そのコストに見合う価値とは何か。そういう問いかけです。ただコストは親でなくとも祖父母が贈与非課税の仕組みで支援もできますよとも。若い夫婦や世帯収入が少ない夫婦も祖父母までの世帯収入を拡大すれば支払うことができるかもしれません、という世の中になっているということです。

多くの親が中学受験する、しないという選択に悩んでいると想定しうるのは、東京23区に住所をもつ人々です。公立小学校生の3~4割は私立中学に進学している実情があります。あと、神奈川、千葉、埼玉の東京隣接域に住んでいる人々。その地域でも23区内と同じか、それより少し少ない割合で私立中学に進学するようです。

一方、東京でも三多摩地区や近県の郊外、あるいは東京23区でもいわゆる下町地区は1割5分前後の私立進学率になるようですから、こちらにお住まいの方の多数派は高校受験しか考えていません。とはいえ、実はそういった地域に公立一貫校が遠距離通学も前提として設定されていますから、公立一貫校への中学受験ということも含めると、東京都に限れば中学受験をして国公私立中学に進学する割合は、全体の2割程度まで拡大します。

但し公立一貫校受験のコストは私立の半分以下で、どうかすると三分の一程度かもしれません。公立校よりはかかるものの、年間30万円前後でしょうか。

付け加えると、高校受験から私立高校という場合のコストですが、塾に通わせることを考えると(多くの場合そうなっています)受験準備費用に100万~200万、私立高校の費用に従来は200万~300万かかりました。ただ、この私立高校にかかる費用は関西、関東では国に加えて地方自治体から(年収制限はありますが高校受験する世帯の8割程度をカバーするかたちで)就学支援金が出されるようになっています。裕福なご家庭ではなく中間層の年収のご家庭なら、通常の私立高校の費用はほぼかかりません。

参考:
東京都私学財団「助成制度について」
大阪府「私立高校生等に対する授業料支援について」

つまり高校受験では公私ともに教育費もかからず、かかるのは受験準備費用だということになる場合が多いということです。

親の年収差が学歴差に繋がる懸念も

教育費について言うと中学受験は親の負担が受験準備(塾教育費)と学校教育費とで800万はかかるのに対して、高校受験は受験準備費用(塾教育費)だけですから200万円以内収まる場合が多いということですね。

そしてこれを学校で見ると、中高一貫校は圧倒的に私学が多く、首都圏では私立が約300校あります。公立一貫校は数十校です。一方、高校だけの私立は少なくて数えるくらいしかありませんが、公立高校は十分あります。

最近、たとえば桐蔭が高校だけの桐蔭高校と中高一貫校の桐蔭中等教育学校に再編されました。都立中高一貫校も中学と高校の併設型をなくし中等教育学校に一本化する方針が打ち出されています。このように中学でも高校でも両方で募集するスタイルは減少しています。最初から中高一貫校進学を考えている年収800万以上の層と高校受験し考えられないそれ以下の年収の層と二極化が進んでいると思われます。

従って親の年収によって子どもの学歴に差が出ている。ひいては所得の世代間移転が生じやすくなっていると言えます。

学校選びは家庭の価値観と一致するかが重要

シンガポールは自国民や永住権取得者の家族などは、国立の学校で学べますが、成績次第で上級学校に進級できる相当なメリトクラティック(能力主義)な進学体制を敷いていますし、米国などの富裕層はプレップスクールの中等教育を受けさせ、高額な私立大学に行かせる超メリトクラティックな進学体制です。しかし一方では、寄附による奨学金制度も充実しています。またオランダでは公私間の教育費負担の差がなく、その代わり教職員も公私で給与の違いはないと聞いています。

日本は学校法人制度があって、簡単には「学校」設立ができない代わりに助成金が出て、無税措置もあって「私学」が英米のように完全独立というより半官半民のような存在です。近年の歴史で見ると教育人口が急増したベビーブーマーに合わせて「私学」が受け皿となり、公立校だけでは賄い切れない需要に対応してきたと言えます。

しかし低成長になって中間層が細り「私学」への機関助成だけでなく、「私学」に通う世帯へ直接の個人補助をして所得の世代間移転のないように政策が発動されてきているのですね。

ただこの個人補助制度が完全に機能するためには私学のコストが公立のコストと変わらないようにするオランダのような仕組みが必要ですが、英米のように私学のコストが高額になると公的資金だけでは支援できず、富裕層のための私立学校(スイスにあるような寄宿学校がその典型)となりがちです。

少し結論を急ぐと、今の制度のままだとすると価値を考えてコストを選択できず、コストを考えて価値は二の次になる可能性もあります。ただ学校の価値の最大化のカギは、家庭の価値観との一致だと思います。コストの妥当性はそこで図るとよいと考えています。

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