はじめに
かつては子育てに専念できる家庭にしかできないとされてきた特別養子縁組ですが、近年は、共働きを続けながら特別養子縁組で子どもを迎えるケースが増えつつあります。
2017年1月からは、特別養子縁組の子どもにも育児休業が適用されるようになっています。
第8回は、共働き家庭の特別養子縁組のリアルを、お伝えします。
育児に専念する「試験養育期間」に驚く
高原芳樹さん・マリさん夫妻(現在ともに42歳、仮名)=第6回・第7回で紹介=は、IT分野、教育の分野でともにキャリアを積んできたご夫婦です。仕事を続けることは、ごく自然なものとして2人の人生プランの中にありましたが、長年続けた不妊治療を諦め、特別養子縁組を考えはじめたときに、初めて共働きに厳しい現実に対面したといいます。
まず戸惑ったのは、特別養子縁組をあっせんする民間事業者の共働き家庭への敷居の高さでした。芳樹さんは「今は共働きの家庭がほとんどなので、共働きの特別養子縁組も『ごく普通』のことだと思っていました。
でも実際は、民間事業者の多くは、共働き家庭は応募ができないように設定されていることを初めて知り、ショックを受けました」と、芳樹さんは打ち明けます。
結果的に高原さん夫妻は、児童相談所を通じて当時8か月の女の子、Aちゃんを迎えることになりました(詳細は第6回)。
しかし、次なるハードルに直面したといいます。それは、Aちゃんが児相から紹介された後から、家庭裁判所で特別養子縁組の審判が下りるまでの6か月以上にわたる「試験養育期間(監護期間)」に、夫婦どちらかが育児に専念することが求められることでした。
試験養育期間とは、養親と子どもとの相性が合っているかを確認するために民法により規定されている期間のことです。この期間は、養親と子どもは一緒には暮らしているものの、法律上の親子関係はまだ成立してはいません。
特別養子縁組は、生みの親と子どもの関係を切断し、新しく養親と子どもの間で親子関係を作る制度です。そのため、家庭裁判所は、養親と子どもが本当に親子になり得るのか、養親としての能力や的確さが備わっているかどうかを、この期間の状態によって慎重に判断し、縁組許可の審判を行っています。
しかし、現実の共働き家庭では、夫婦のどちらかが会社を「6か月間以上、育児のために休む」ということは、なかなかできません。では、どうするのがいいのでしょうか。この期間のために、共働き家庭が利用しているのが、育児休業です。高原さん夫妻も、この期間を乗り切るために、まず検討したのが、育児休業でした。
会社で第1号の特別養子縁組の育休取得者に
試験養育期間中の育児休業は、養親のうち、男性側/女性側どちらが取得してもかまいません。高原さんの場合、妻のマリさんには育児休業を取得できる状況にはありませんでした。というのも、児相からAちゃんの紹介を受けたのが2016年1月のこと。しかし教員である妻のマリさんは、同年4月以降の授業のスケジュール予定が既に確定しており、代替教師の手配も困難な状況でした。
妊娠期間がない特別養子縁組では、このように急に育児休業の必要性に迫られるのが現実です。そこで勤続10年以上の芳樹さんが、育児休業を申請することにしたそうです。
芳樹さんの会社では、まだ特別養子縁組で育児休業を申請する社員はおらず、芳樹さんが第1号の申請者でした。そこで、まずは、具体的な時期や期間は「未定」ののままで人事部に育児休業の可否の問い合わせをしておくことにしました。そして、仕事を休むことで周囲に迷惑をかけることを考慮し、子どもとの面会が確定した段階で、人事権のある上司にも相談。
同時に同期のママや、会社内の先輩のママ社員にも育児体験談をして、育児休業取得の意志を周囲に分かってもらう努力を重ねたといいます。こうして芳樹さんの育児休業取得は会社側に理解され、許可されました。