はじめに

保育園に落ちて、ようやく育児休業給付金を受給

無事に育休が取得できた芳樹さんでしたが、今度は別の壁が現われたと言います。それは、「1歳の誕生日までに保育園の待機児童にならなければ、育児休業給付金は打ち切られる」という問題でした。

雇用保険(育児休業給付金)には、「1歳の誕生日前に入園する意思をもって認可保育園への入園申し込みを行い、不承諾になった場合のみ、1歳6か月になる日の前日まで、育児休業給付金を受給できる」という仕組みがありました。

しかし、特別養子縁組で迎えたAちゃんは、高原家に迎えた時点で、すでに8か月になっていました。あと2か月で、入園申し込みが締め切られる1歳を迎えます。保育園への申し込みの締め切りはありませんが、育児休業給付金を受け取るには、「1歳になる前日までに入園申込をして、不承諾になる」必要があります。

そのため、せっかく苦労して育休であるにもかかわらず、育休開始後すぐに「保育園の入園申込」をしなければなりませんでした。

もしも保育園に入れることになった場合には、保育園に入れて育休を終了させるか、もしくは入園を辞退して、給付金を受給せずに育休を継続するという選択を迫られます。いずれにせよ保育園への申し込みは必須であったため、芳樹さんは育休開始後すぐに入園申し込みをしました。

その結果、年度途中であったためか「入園不承諾」の通知が来て、結果的に1歳以降も育休を継続できることになりました。つまり高原さん夫妻は、保育園に落ちて、育児休業給付金を受給できるということになったのです。

このような事態が起きる背景には、児童相談所などから特別養子縁組で子どもを迎える際には、生まれてから少しの期間を乳児院で過ごし、すでに1歳近く、または1歳以上になった子どもが紹介されるためです。

しかし雇用保険の制度上、1歳以上の子を紹介された場合は、育児休業給付金を受給することはできません。つまり特別養子縁組の育児休業には、まだまだ制度上の落とし穴があるのです。

芳樹さんは「現行の育休の仕組みは、まだまだ共働きの特別養子縁組に厳しいのが実情です。せめて育児休業給付金の支給年限を、子どもの年齢ではなく、給付金の支給開始の月数(例えば支給開始から1年半までなど)で判断できないものでしょうか」と指摘します。

「出産話」をしなくていい父親のメリット

とはいえ、7か月の育児休業を取得できることになった芳樹さんにとって、育休は新鮮な経験でした。フルタイムで働くマリさんに代わり、授乳、離乳食作り、おむつ替えなどはすべて担当し、育児に専念することに。「平日の児童館や体操教室、公園などに連れていきました。父親は僕一人でスーパーアウェイ感がありましたが、いろいろと学ばせてもらいました」。

このあたりまでは、実子で男性が育児休業を取得した時と、そう変わりません。しかし、特別養子縁組の場合は、慣れない育児に加えて、特別養子縁組の家裁への申請手続きがありました。

子どもの細切れの昼寝時間を狙っては、行政に電話をかけたり、書類を書く作業をするなどの作業が発生しました。「育児休業はラクができるという印象があると思いますが、すごく忙しくて仕事をしているのとほとんど変わらないかのような日々でした」。

一方で、父親だからこそ受けられる恩恵があったそうです。特別養子縁組の母親が、ママ友づきあいで困ることの一つに、「お産の話ができない」という部分があります。しかし父親なら、必然的に出産の話は、ママ友から切り出されることはありません。ママ友との話題は育児の悩みが中心で、その解決策を話し合う非常に建設的なものになりました。

また特別養子縁組の赤ちゃんは母乳ではなくミルク育児であるため、父親でも自然に授乳がしやすかったといいます。「ほかにも例えば育休中に知り合ったママ友とはラインで繋がり、道端でも声をかけられるようになりましたが、こうして近所に知り合いが増えたことは、まだ特別養子縁組に理解が少ない社会の中で、子どもを守る安心感にも繋がりました」と、芳樹さんは話します。

見てきたように、共働きの特別養子縁組には、まだ多くのハードルがあります。しかし2017年1月1日からは、改正育児・介護休業法が施行され、特別養子縁組の試験養育期間中にも育児休業が取得できるようになっています。

芳樹さんの時代よりも、共働きの育児休業は、確実に取得しやすくなっているのです。一方で、特別養子縁組で育児休業が取得できることを知らず、残念ながら試験養育期間に対応するために会社を辞めてしまうケース(主に女性側が)も現実にはあるようです。

共働きで特別養子縁組を考えているご夫婦は、これからも確実に増えていくでしょう。会社や周囲に相談しつつ、上手に育児休業を取得でいる方法を考えながら、夫婦で納得のいく特別養子縁組を目指したいものです。

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