はじめに

羊肉料理の始まりはウールの需要

今回、レシピ本を監修し、出版パーティーを企画したのが、消費者団体である「羊齧(ひつじかじり)協会」です。協会は2012年に発足し、羊肉料理を集めた「羊フェスタ」を開催するなど、羊肉の普及に努めています。会員は全国で1,700人に上るそうです。

代表の菊地一弘さんは「ラム焼肉や羊肉の和食など、羊肉を扱う飲食店の幅が広がったこと、日本への輸入が解禁された国が相次いだこと、スーパーなどでも羊肉を取り扱うようになったことなど、複合的な要因でじわじわとブームが広がっている」と話します。


パーティで振舞われたラムミント。羊肉はハーブと相性が良い

菊地さんによると、明治時代まで日本に羊はほとんどいなかったそうです。ところが、大正から昭和初期にかけ、ウールを取るために国家事業として羊の飼育が進められました。特に多くの羊を飼っていた北海道で、ウールを取った後の羊肉を食べやすく調理したのが、ジンギスカンの始まりだといいます。

昭和30年代には羊肉の輸入が自由化され、北海道でジンギスカンブームが起こります。当時は新婚旅行で北海道を訪れる人が多く、ジンギスカンは全国的に広く認知されるようになりました。

続く第2次ブームは2004~2006年頃。BSE(牛海綿状脳症)問題で牛肉の輸入ができなくなり、食肉業界が羊肉を売り出したのが理由です。ブームは牛肉輸入が再開すると収束しますが、この時に今も名店として続くジンギスカン店が多く開店したそうです。

第4の肉として定着するか

そして今回の第3次ブーム。羊肉の輸入先はほとんどがオーストラリア、ニュージーランドですが、2017年以降、フランス、米国、アルゼンチンなど、新たな輸入解禁国が相次ぎました。これに伴い、輸入量も2016年に1万9,642トンだったのが、2018年は10月までで2万1,146トンと、右肩上がりに増えています。

同協会の調査では、羊肉が食べられる東京近郊の飲食店は2014年に約250店舗でしたが、今では約500店舗までに広がりました。また、2017年にはイオンリテールが本州と四国のイオンなどでラム肉売り場を従来の2~3倍に拡大すると発表するなど、一般的なスーパーでも羊肉を扱う店が増えたそうです。


スーパーでも見かけることが増えた羊肉(PIXTA)

岩手県遠野市の遠野ジンギスカンや、山形県蔵王町の蔵王ジンギスカンなど、地元産の羊肉で町おこしをしようとする自治体も目立つようになりました。こうしたことから羊肉ファンは着実に増え、同協会が年に一度都内で行う「羊フェスタ」では、2014年は530人の集客でしたが、2018年には3万人以上が詰めかけたそうです。

「冷凍技術が発達し、いい羊肉が入るようになったこと、羊肉の扱いに慣れたシェフが増えたこと、熟成肉ブームやジビエブームなどで日本人の肉の好みの幅が広がったことなど、ブームにはさまざまな背景があります。一過性のものに終わらず、『第4の肉』として家庭でも根付いてほしい」

中国留学で羊の魅力にはまり、普及活動を続けてきたという菊地さんの願いは、どこまで花開くでしょうか。

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