はじめに

5月中にも最終合意に至ると期待された米中貿易協議ですが、ドナルド・トランプ米大統領は5月5日に中国製品2,000億ドルに対する追加関税を10%から25%に引き上げると発言し、10日に実効となりました。さらに、残りの約3,000億ドル分の中国製品を関税引き上げ対象にする「第4弾」の詳細も13日に発表しました(発効は6月末以降)。

中国の輸入依存度が低かった第3弾までと異なり、第4弾ではスマートフォンやノートパソコン、ゲーム機などが含まれます。これら製品が米国の各品目の輸入全体に占める割合は8~9割に上るため、米国の幅広い消費者に影響が及ぶことになります。

これに対して、中国側は報復措置を示唆。同国内での報道も「米中貿易摩擦」から「米中貿易戦争」へと変化するなど、本格的な対立姿勢を強めています。

こうした状況下、投資家にとってはリスクを取って動きづらい状態が続いています。しかし、かといって期待できる投資先がないわけでもありません。


何が問題をこじれさせているのか

米中交渉で特に妥結が難しいのは、中国政府のハイテク産業育成策「中国製造2025」における産業補助金の全廃でしょう。中国は国の補助金の撤廃は約束したが、地方政府の補助金を残す意向を示したため、米国側はこれを“抜け道”だとして廃止を迫りました。

さらに、トランプ大統領が5月15日、中国のファーウェイやZTEが製造した通信機器の米国内での販売制限につながるとみられる大統領令に署名したことで、昨年12月にいったん落ち着いたと見られた中国の通信機器に関する使用制限問題も再浮上しました。

米中対立の背景には、国際秩序が変化してく過程でのハイテク技術を巡る覇権争いがあり、中長期的にくすぶり続ける問題と考えざるを得ないでしょう。

今後の展開を見通してみる

今後の行方を占ううえでのカギは、2020年に控える米国の大統領選挙となりそうです。

トランプ大統領の誕生に大きく貢献した米中西部の農業州では、大豆などの対中輸出に対する報復関税によって甚大な影響を被るにもかかわらず、米国は追加関税の引き上げを決行しました。米国経済が好調さを取り戻したことに加え、トランプ大統領が示した中国に対する強硬姿勢が、党を超えた支持を受けていることによるものとみられます。

選挙では時として、外交面での強いリーダーシップが勝利に導く要因として働きやすいものです。トランプ大統領は来秋の選挙にかけて「対中強硬姿勢」をカードとして使い続ける可能性が高いでしょう。

とはいえ、米中交渉が完全に物別れとなり、世界景気が悪化する事態までは想定していません。米中が相互に全輸入に25%の関税をかけた場合、米国の実質GDP(国内総生産)は▲0.3~▲0.6%、中国は▲0.5~▲1.5%の押し下げになるとIMF(国際通貨基金)は試算しており、悪影響が想定される中国側はある程度は譲歩して軟着陸を目指すでしょう。

米国でも、幅広い消費財への高関税賦課による米国内の物価上昇が金融政策を引き締め気味にせざるを得なくなる事態を回避すべく、対応が迫られる事態が到来すると予想されます。今後しばらくは米中交渉の行方が注視され、米中関係筋の発言に反応しやすい相場展開が想定されます。目先の注目イベントは、6月28~29日に大阪で開催されるG20 です。

<写真:ロイター/アフロ>

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