はじめに

自動車メーカーは“買い”?

どこでもドアが最も脅威となる業界といえば、移動手段を提供する会社です。どこでもドアは目的地までの移動時間や距離を極限まで短くしてしまいます。単純な移動手段という観点からいえば、たとえば自動車メーカーには勝ち目がないと思われます。

しかし、投資家はこのような業界にこそ、チャンスが転がっていると考える可能性があります。ここでは「市場評価の偏り」と「各社の事業戦略」という2つの要素が重要になります。

この場合の「市場評価の偏り」とは、買い注文に対して、売り注文が殺到してしまうことです。どこでもドアの発明によって、誰もが自動車を不要と考えるかもしれません。このような状況においては、ほとんどの市場参加者が売りに殺到しやすくなり、会社の適正価値を超えて株価が下がってしまうことも想定されます。これは、どこでもドアを発明したA社の株価の動きと対照的です

ただし、どこでもドアのような技術革新が発生した場合、同じ業界でも生き残る会社と淘汰されてしまう会社が出現します。これを市場の動きだけで判断することはできません。この違いを見分けるうえで、2つ目の要素である「各社の事業戦略」の検討が重要になってきます。

どこでもドアという究極の移動手段に対抗するためには、燃費の改善などといった移動手段としての土俵で戦っている限り、自動車に勝ち目はありません。業界が総崩れになって市場の評価が冷静でない時こそ、投資家は別のフィールドで戦うなどといった冷静な事業戦略の見直しができる会社を買うのです。

どこでもドアに勝つクルマ

別のフィールドで戦うには、どこでもドアが提供できない価値に注目する必要があります。

たとえば、どこでもドアは移動は特化していますが、建築を行ったり、建材のような大きな荷物を運んだりすることはできません。自動車メーカーの中には、この点に着目し、普通自動車から建設機械や大型輸送車両の製造・メンテナンスにシフトしていく会社も出てくるかもしれません。

どこでもドアによって場所と場所の間の制約がほとんどなくなることから、地価の安い田舎を中心に建設需要が喚起されることも相まって、思いがけず善戦するかもしれません。

投資家はどこでもドアによって自動車メーカーが倒産してしまうという一般的な感覚から一歩踏み込んで、その中で淘汰されずに新たな価値を創造していける会社が存在しないかを考えます。「人の行く裏に道あり花の山」という相場格言にもあるように、皆の投資判断が一致している時こそ、その前提を疑うことが成功への近道なのかもしれません。

しばしば究極の道具といわれるどこでもドアですが、このひみつ道具が提供できない価値も実はたくさんあります。われわれの身の回りでは人工知能が私たちの仕事を奪い、産業構造を大きく変えてしまうことが懸念されています。あなたが投資家であるとしたら、人工知能が産業構造を変えてしまった時にどんな会社へ投資してみたいと考えますか?

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>