はじめに
ビンテージの風合いと新築の快適さ
リノベーションでは、老朽化した水回りや空調設備を更新。主にコンクリートの劣化の進行度で決まる耐用年数は、新築同等の築65年以上あることを、第三者による評価で取得しました。
合わせて、経年劣化した擁壁の補強工事を行い、安全性を確保しました。その一方で、文化財の保存にも使われる「モノトール」という技術を使って外壁のタイルを再利用し、年月を経た建物ならではの風合いも守りました。
また、330平方メートルという広すぎる部屋は分割し、使われていなかった敷地に新棟を建て、8戸から15戸に増築。さらに、エントランスは既存の雰囲気は残したまま吹き抜けに改築するなど、ラグジュアリー感を演出しました。
モデルルームを見学すると、高級マンションと遜色のない豪華さがありながら、バルコニーなど以前の建物のパーツを残した部分には重厚感がありました。建物の外側には大きく成長した樹木が茂り、新築にはない魅力を感じました。
モデルルームのダイニング
同社は「日本初のハイブリッド型のリノベーション」と謳います。前出の担当者は「一度壊すと二度と作ることができない建物があります。普通のリノベーションではなく、既存の建物を残し、新築マンションにはない価値を提供することを目指しました」と話します。
野村不がリノベに乗り出すワケ
それにしても、新築を得意としてきた野村不動産が、なぜリノベーションに乗り出すのでしょうか。背景には、リノベーション事業機会の拡大があります。
国土交通省によると、全国の分譲マンションのストックは約654万戸(2018年末時点)。このうち、1986~2007年に建てられた築10~30年のマンションは370万戸超に上ります。一方で、年間のリノベーション物件は約1万戸に過ぎません。
新築マンションの用地取得競争が激化し、建築費が高止まりしていることも、リノベ事業参入の理由の1つだそうです。担当者は「事業機会を逃さないためにも、リノベーション事業は今後もやっていきます。一方で、われわれが目指すハイブリッド型リノベーションができる物件は限られており、まだ第2弾は決まっていません」と明かします。
ニューヨークやパリでは、築100年以上の建物をリノベーションした高級マンションが多くあるといいます。まだまだ新築を好む人が多い日本でも、建物の古さや風格に価値を見出す考え方が根付くでしょうか。