はじめに
湿度が高くて蒸し暑い、日本の夏が近づいてきました。真夏の熱中症対策グッズとして最近注目されているのが、電動の“扇風機”がついた「ファン付きウエア」です。
すでに建設現場で働く人の間では必需品になっていますが、この夏、ファン付きウエアをゴルフなどのスポーツシーンで着てもらおうとメーカーが動き出しました。定着するでしょうか。ファン付きウエアの仕組みと開発の歴史を紹介します。
元ソニーの技術者が発明
ファン付きウエアは、腰の2ヵ所に付いた小型ファンから空気を取り込み、汗をかいた体の表面に大量の風を流すことで、気化熱で体を冷やす仕組み。風呂から上がった時に体がひんやりとした経験がある人も多いと思いますが、あれが気化熱です。
実際に着ると、ファンから取り込まれた風が体の表面を通り、襟元と袖口へと抜けます。ファン付きウエアは充電式のバッテリーを使い、最も強い風量で約8時間動きます。道路工事や建設現場で働く人が着ているのを見たことがある人もいるのではないでしょうか。
腰部に付いているファンから空気を取り込み、襟元などから抜ける仕組み
このファン付きウエアのトップシェアを占めるとされるのが、東京都板橋区にある「空調服」という従業員50人ほどの会社です。1991年にソニーの技術者から脱サラした市ヶ谷弘司会長が設立し、社名にもなっているファン付きウエア「空調服」を発明しました。
起業した当時は、テレビのブラウン管を測定する装置を作っていました。市ヶ谷会長が出張先の東南アジアで猛暑の中で進む建設ラッシュを見て「環境に負荷をかけない冷却装置を作ろう」と決意したことが、ウエア誕生のきっかけです。
冷却ベッドなど試行錯誤を重ねてファン付きウエアにたどり着き、2005年から本格的に販売を始めました。ブレークスルーは、電池を充電式バッテリーに変えた2010年。売り上げが一気に伸び、会社が軌道に乗ったといいます。
ウエアメーカーが広島に多いワケ
厚生労働省の集計では、2018年に職場での熱中症で死傷した人は前年の倍以上の1,178人と、過去最多を更新して深刻な問題になっています。こうした背景もあり、空調服は真夏の熱中症対策として、大手ゼネコンや電力会社で採用されています。
日本発のファン付きウエアは海外からの関心も高く、米ロサンゼルスのワイナリーでブドウの収穫をする人たちも着ています。
ファン付きウエアのメーカーは空調服以外にも複数あります。その多くが、作業服メーカーの集積する広島県の備後地方で作られています。
この地方は繊維業が盛んな地域で、約170年前から絣(かすり)を生産し、大正時代にはズボンや肌着の縫製で発展してきました。昭和30年代の好景気によって建設業や製造業が伸びたことで作業服を着る人が増え、作業服の製造に切り替えるメーカーが多くなりました。
広島・岡山の両県内で年2回開かれる作業服の展示会には、全国からバイヤーや繊維商社など多くの関係者が集まります。繊維専門紙「繊維ニュース」の調査によると、ファン付きウエアの市場規模は年々拡大し、今年は約100億円に達すると推計されています。