はじめに

米中摩擦懸念に米利下げ期待が上乗せ

今回のリスクオフの最大の要因は米中貿易摩擦でしょう。連休前は、貿易協議の最終合意への期待から、日米ともに株価が上昇していました。それが、連休中に米政府が対中国追加制裁関税を発表、さらに中国通信機器大手ファーウェイ向け輸出禁止も発表されたことで、金融市場は一気にリスクオフに傾きました。

ほかにも、テリーザ・メイ英首相の辞任、欧州議会選の中道2大勢力の過半数割れ、米国の対イラン追加制裁と対メキシコ関税引き上げ、中国景気指標のさらなる減速、イタリア財政問題の再浮上、アジア・オセアニア諸国の政策金利引き下げなど、マイナス方向の材料が次々に出てきたことで、リスクオフの流れが続いた印象です。

5月後半の株価は一進一退の印象でしたが、5月末から6月に入り、もう一段の下落となりました。ここで大きく低下していたのが米長期金利です。日米の金利差が縮小したことで、円高も誘発されました。

これには、米政策金利引き下げへの期待が急速に高まったことが背景にあると思います。米FRB(連邦準備制度理事会)は、2015年12月から続けてきた利上げを、3月にいったん先送りするとしていました。これが再び利下げ方向に向かうとの期待が台頭してきたわけです。

米雇用統計(7日)とFOMC(19日)に注目

さきほどリストアップした米中貿易摩擦をはじめとする懸念事項の多くは、1年以上前から続いている話です。トルコ問題や北朝鮮問題も同じ。少しずつ新たな話が加わったかもしれませんが、同じ懸念の延長線上の話です。

そして、いずれも解決の見通しはありません。おそらくどれもあと数ヵ月、いや数年にわたり一進一退となる気がします。

その中で、唯一の新しい材料が米利下げです。昨年来の米国景気減速(懸念)という材料の延長線上という見方もできますが、最近まで続いてきた米利上げを反転させる話なので、方向転換という点で新しい局面といえます。そして、6月に唯一変化する可能性のある材料という観点からみて、6月最大の注目材料という見方もできるでしょう。

次回の米FOMC(連邦公開市場委員会)は、19日夜(日本時間)に議長会見が予定されています。実際に利下げをしなくても、会見で利下げに関する言及があるかどうかが注目ポイントとなります。

利下げ実施または言及となれば、もう一段の長期金利安・円高と株安となるか、あるいは市場想定通りとして下げ止まりとなるかでしょう。どちらになるかは、ここから19日までに、さらなる思惑と期待により、米長期金利と為替がどう動くかにもよります。

一方で、利下げもないうえに利下げは検討していないという説明があった場合は、利下げへの期待が剥落する形となり、為替も金利も5月半ばの水準まで戻る可能性があります。株価も同様に5月半ばの水準(日経平均で2万1,200~2万1,500円)に戻る可能性があると思います。

米FRBの政策金利を見通すうえで重要な指標となるのが、7日夜(日本時間)に発表される米雇用統計です。先月までは堅調な結果が続いてきましたが、もし減速の兆しが見られるようであれば、利下げへの期待がさらに高まる可能性が出てきます。

<文:ストラテジスト 田村晋一>

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