はじめに
日本では依然として労働条件の良い企業ほど新卒一括採用で終身雇用の傾向が強いため、出産などで退職してブランクができてしまうと、正社員などの好条件では復職しにくくなります。正社員と契約社員やパートでは当然ながら収入に差が出ますが、生涯所得で見ると、実際にどれくらいの差になるのでしょうか。女性のM字カーブと生涯所得の現状について見ていきましょう。
「M字カーブ」が生む女性の生涯所得の差
少子高齢化による労働力不足の中で、女性の「M字カーブ」の解消が課題となっています。M字カーブとは、横軸に年齢を取って女性の労働力率のグラフを描くと、30代あたりで底ができ、M字型となることを言います。出産や育児をきっかけに、いったん退職し、子育てが落ち着いてからパートなどで復職する女性が多いためです。
進む「M字カーブ」の底上げ、でもまだ解消されず
まず、M字カーブの現状を押さえていきましょう。「女性の活躍推進」政策が始まってから、五年が経過しました。育児休業や時間短縮勤務制度、在宅勤務制度をはじめ仕事と家庭の両立環境の整備が進むことで、M字の底上げが進んでいます。
しかし、M字の底は残っており、解消には至っておりません。実は、先進国で未だM字を描くのは日本と韓国のみです。「夫は外で働き、妻は家庭を守る」といった価値観が根強く残っているためでしょう。一方で、女性の社会進出がより進んでいる米国や英国などでは逆U字型を描きます。30~40代の働き盛りほど、労働力率が高いためです。
大学卒女性の生涯所得は育休・時短でも2億円超
さて、出産や子育てで退職した場合と働き続けた場合では、生涯所得にどれくらいの差が出るのでしょうか。ここでは、大学卒の女性について働き方別に生涯所得を推計しました 。
図2の一番上は、育休や時短を一度も利用せずに60歳までフルタイムで働き続けた場合で、生涯所得は退職金も合わせて2.6億円となります。そして、上から2番目以降は全て2人の子どもを出産したパターンです。上から2番目の「育休→フルタイム」は2人の子どもを出産し、それぞれ1年間の育児休暇を取得した後にフルタイムで復職した場合で、生涯所得は2.3億円となります。3・4番目は2人の子どもを出産し、同様にそれぞれ1年の育休を経て、時短勤務を利用した場合です。第2子が3歳になるまで時短を利用すると、生涯所得は2.2億円、小学校入学前まで利用すると2.1億円となります。つまり、2人出産して、子ども1人当たり1年間の育休を取得し、時短勤務を利用しても、正規雇用者として働き続けると生涯所得は2億円を超えるのです。
一方で、第1子出産後に退職し、第2子の小学校入学のタイミングで契約社員等の非正規雇用で復職すると、およそ1億円、パートで復職すると6千万円となります。離職後に復職パターンではパートでの再就職が多いとすれば、出産後も働き続けた場合と比べると、生涯所得は1.5~1.7億円の差が生じることになります。なお、第1子出産後に退職し、復職しない場合は生涯所得は3.8千万円ですから、働き続けた場合と比べると、2億円に近い差が生じることになります。