はじめに
インドで4月から5月にかけて行われた下院総選挙で、ナレンドラ・モディ首相が率いるインド人民党(BJP)が歴史的な大勝を果たしました。
マーケットが描いていたベストシナリオ以上の結果に、インドの代表的な株価指数のセンセックス指数は再び史上最高値を更新。一時、4万ポイントの大台に乗せました。
モディ政権2期目は上々の滑り出し
インド選挙管理委員会は5月23日、約1ヵ月にわたって実施された5年に1度の下院総選挙の開票結果を公表しました。
モディ首相率いるBJPは、545議席のうち303議席を獲得し、前回の2014年総選挙時から20以上議席数を伸ばしました。多数の政党が乱立するインドの下院において、単独政党が2期連続で過半数を上回る議席数を確保するのは35年ぶりであり、BJPの圧勝といえます。
さらに、与党連合である国民民主連合(NDA)の総議席数は、およそ3分の2にあたる353議席に達しました。今回の選挙結果だけを見れば、モディ政権2期目の船出は上々の滑り出しといえそうです。
風向きを変えた2月のパキスタン空爆
モディ政権にとって、任期後半の2年間の道のりは長く険しいものでした。
1期目は、銀行の不良債権処理の加速と銀行の財務基盤改善を目的する破産法の制定(2016年5月)や、ブラックマネーのあぶり出しを目的とする高額紙幣の刷新(2016年11月)、これまで州によってまちまちであった間接税の一本化を目的とする財・サービス税(GST)の導入(2017年10月)など、大胆な政策の実行により財政の健全化を実現。金融市場にはこれを評価した海外資金が流入し、地方選挙でもBJPの善戦がたびたび報じられました。
一方で、大胆な政策に伴う景気の減速や混乱はおおむね終息したようにみられたものの、特に有権者の7割が住む農村部や小規模小売業者の回復は遅れ、2018年以降、これら有権者の不満が噴出。任期後半の2年間の地方選挙では、BJPの敗戦色が濃厚となっていきました。
今年2月に実施された世論調査では、与党連合NDAの予想獲得議席数が過半数を大きく割り込み、モディ政権の再選を危ぶむ声まで上がっていました。
そのような中で転機となったのは、2月のパキスタンへの空爆です。パキスタンのイスラム過激派が、カシミール地方のインド支配地域で行った自爆テロ攻撃に対する報復でした。
多くの殉職者を出したこの悲劇に、政府が断固とした態度を示したことで、政府は有権者の賞賛を集めました。同時に、この事件をナショナリズムに大きく訴えた、BJPの選挙戦略も奏功したといえるでしょう。
政権2年目の課題と展望
想定以上の総選挙の結果を受け、株式市場には資本流入が加速し、センセックス指数は一時初めて4万ポイントの大台に乗せました。ルピーの対ドルレートも1ドル69.65ルピアと底堅く推移しています(6月10日時点)。1期目前半のような大胆な政策遂行を期待した海外資金が流入しているのでしょう。
2期目のモディ政権は順調な滑り出しとなりそうですが、一方で乗り越えなければならない課題が多いのも事実です。1期目に打ち上げた政策のうち、複雑な労働法の改正を含む雇用改革や、インフラ整備の進捗を阻む土地収用法の改正などの大きな改革が、2期目に持ち越されました。
しかし、目下は減速気味の経済成長の下支えや、農村部支援などに追われるでしょう。モディ政権は、政権公約として160兆円に上るインフラ投資、農村部における実質的な最低所得保障や作物の最低保証価格の引き上げ、低所得者層向け住宅の建設など農村部の支援策を掲げています。
幾分バラまき志向の強い政策となっていますが、財政を悪化させずに景気を刺激しつつ、中長期的な経済成長の加速していくための対策を講じられるのか。モディ政権の新たな5年間が注目されます。
<文:市場情報部 北野ちぐさ 写真:ロイター/アフロ>