はじめに

資産はリスクを取るものと取らないものに分けて運用する

続いて話題は、投資と運用について。

山崎: 投資や運用において頭に入れておきたいのは、お金の持つ3つの自由の性質についてです。

1.使い道の自由

医療費に使うにしても、老後の生活費にあてるとしても、寄付をするにしても、お金の使い道は後から自由に考えることができます。これが使い道の自由です。

2.形の自由

例えば、100万円でも1億円でも同じ投資信託を買えば、リスクとリターンは変わりません。お金をどんな形で持っておくかに制限はないということです。

3.大きさの自由

仮に、老後のために3,000万円の貯蓄をすると目標を立てたとして、結果として4,000万円貯まっても問題があるわけではありません。たくさんあっても困らないという意味で大きさの自由があります。

山崎: これらの性質をつきつめて考えると、お金の増やし方は、単に合理的に、つまりもっとも効率良く扱えばいいだけで、基本的に誰しも同じでかまわないということになります。どれだけのお金を持っているかや家族の事情などで、取ることが適切なリスクの大きさは個人によって変わりますが、将来の使い道と運用方法を紐付ける必要はないし、それぞれの人に適した別の運用方法があるというわけではないのです。

それでは具体的にどのような運用をすれば合理的にお金を増やすことができるのでしょうか。

山崎: まず大枠として、資産はリスクを取って運用するものとリスクなしで運用するものに分けて考えるところから始めましょう。

山崎: これは、私がさまざまなケースから導き出した目安ですが、以下で述べるような運用を行う場合、最大の損失は年間1/3、平均の運用利回りの年率は5%くらいだと想定しておくといいと思います。

リスク資産は外国株式のインデックスファンドと国内株式のインデックスファンドで持っておくといいでしょう。インデックスファンドは、運用内容に大差があるわけではないので、信託報酬がなるべく安いものを選ぶのがポイントです。

無リスク資産は、変動金利型10年満期の個人向け国債が圧倒的に有利です。一番のメリットは金利の上昇リスクに強いこと。例えば、いまほぼ0%の利回りが3%まで上がったとすると、国債の価格は30%下落します。これは何行かの銀行が倒産するくらい大変な事態です。

でも、個人向け国債なら元本が確保されているから損をすることはない。また現在、10年定期預金の利回りは0.01%くらいですが、個人向け国債の変動金利は最低0.05%で設計されているので、定期預金より変動金利型個人向け国債の方が利回りがいいのが現状です。加えて、信用リスク面で銀行預金よりも安全です。

ここで知っておきたいのが、自分がどれだけのリスクを取れるのかです。具体的な数値で考えることはできるのでしょうか。

山崎: リスクを考える際に大事なのは、損してもいい金額についてです。ただ1,000万円の損をして、3,000万円の資産が2,000万円になってしまったといっても、どれくらいのインパクトがあるのかいまいちピンときませんよね。その時、基準となるのが「360」という数値です。

この「360」という数値は、老後年数30年を月で換算した360か月のことだと言います。

山崎: 360万円あれば、老後の定期収入に加えて毎月1万円余計に取り崩せるということです。逆に、360万円の損をすると、老後に使えるお金が月1万円減ると考えればいいわけです。月1万円といっても、それが決定的に困る人もいれば、そこまで大きな打撃ではない人もいます。自分がどれだけリスクを取れるのかは、老後の生活を予想したうえで「360万円」を基準に考えるといいでしょう。

リスク資産は置き場所が重要

前述の基本構造に則って、リスク資産を賢く運用するためには、その置き場所が重要になってきます。山崎さんが勧める資金の置き場所はその優先度順に「確定拠出年金」「NISA」「課税口座」の3つです。

山崎: 圧倒的に有利なのは確定拠出年金です。なぜなら所得控除が受けられるからです。例えば会社員の場合、確定拠出年金の限度額は月2.3万円ですから、年間27.6万円を無課税で積み立てることができます。リスク資産の運用は確定拠出年金制度を最大限活用するのがもっとも合理的な選択です。NISAは運用益に課税されないので、2番目に有利な置き場所と考えます。最後に課税口座という順番です。

では、それぞれの場所にどんな金融商品を置いておけばいいのでしょうか。それを表したのが下記の図です。

山崎: 具体的な商品については、まず確定拠出年金で、外国株式インデックスファンドのうち一番手数料が低いものを選ぶのが得策です。NISAは、流動性も自由度も低いので、投資する金額はバランスを考えて見積もり、TOPIX連動型のETFがよいでしょう。

奨学金には安易に手を出さない方がいい?

イベント終盤には、山崎さんと岩城さんが参加者からの質問に答えるコーナーが設けられました。

Q:なぜ老後の生活費を70%ほどにしか抑えることができないのでしょうか?

岩城: これは推測ですが、住宅ローンを払い切っていない人が多いのではないかと思います。我が家では、夫があと10年くらいでリタイアする予定なのですが、去年子供の教育費がかからなくなったタイミングで、住宅ローンをあと10年で払い切れるようにしました。

退職金で住宅ローンを払おうと思っている方もいるかもしれませんが、退職金は老後の資金として大事に活用した方がいいです。また、繰り上げ返済はやりすぎると貯蓄ができなくなるので、バランスをしっかり考えましょう。

山崎: 繰り上げ返済と貯蓄、どちらを優先すべきかというのは微妙な問題です。1%の利回りのローンで借金を返すということは、リスクゼロで利回り1%の預金にお金を入れることと同じです。1%といえばかなり高い利回りですから、理屈としては繰り上げ返済を優先した方が得です。

でも、繰り上げ返済のために自由に使えるお金が少なくなり、例えば病気に備えて医療保険に入るということになると本末転倒です。そもそも借金がある状態はかなり不利なので、ローンを組むこと自体を考え直した方がいいかもしれません。

Q:老後の必要貯蓄額にプラスして子供の教育費を貯めるにはどうしたらいいのでしょうか?

岩城: まず、先ほどの山崎さんのお話にもあったように、お金には使い道の自由がありますから、貯める時にあまり区別はつけなくてもかまいません。教育費のためというと、みなさん学資保険を思い浮かべると思いますが、現在の返戻率ではおすすめできません。NISAをはじめ、非課税で運用できる場所で、効率的にお金を増やす方がお金は貯まりやすいです。

すでに、利回りのよくない学資保険を持っていて、貯蓄が思うようにできないという方は「払済保険」にするという方法があります。これは、生命保険料の払い込みを中止し、その時点での解約返戻金相当額を一時払い保険料として、元の保険契約の主契約と同じ種類の保険に切り替えることです。特約はなくなりますが、契約時に約束された利回りで運用してくれます。こうして、それまで支払っていた保険料相当分を貯蓄に回すとよいでしょう。

山崎: 可能な範囲のリスクのなかでお金を運用するのは合理的な選択ですが、例えばいくら貯めるために何%で運用しようというようなことは考えない方がいいです。運用とは「運を用いる」と書くくらい不確実性の高いものです。計画が必要なのはむしろ貯蓄の方です。大切なのは投資より貯蓄だと改めて言っておきます。

Q:教育費に奨学金を活用することについておふたりはどう思いますか?

岩城: 大学の勉強が忙しいとアルバイトをする暇もなく、サークルやゼミの旅行や留学など、お金のかかる場面はたくさんあります。だから奨学金を活用することは決して悪いことではないのですが、個人的にはあまりおすすめできません。奨学金を借りると未来に借金を残してしまうことになるので、できる限り親が負担してあげた方がいいと私は思います。

山崎: 私は、奨学金はそんなに悪くない選択だと思います。今、奨学金の利率は0.1%と低めですから、アルバイトをして勉強する時間を犠牲にしてしまうことの方がむしろもったいないです。

大学生の時の時給はせいぜい1,000円程度ですが、将来年収500万円稼げるようになった時の時給は2,500円くらいにまで上がります。つまり収益性が高くなった状態で学生時代の時間を買えるということです。学生のころの時間を有効に使うということを考えると、奨学金という選択も十分合理的だと思います。

一方で、そもそもみんながみんな大学に進学する必要があるのかということこそが疑問です。例えば、芸事や職人の道を考えると、なるべく早くからトレーニングした方がいい。子供にとって大学に行くことが本当にベストなことなのか、10代のうちに一度しっかり考えてみた方がいいかもしれません。

岩城: 現在は非常に低い利回りですが、今後、借入をする際には、その時の借入金利を確認し、計画的に利用をしてください。

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