はじめに

「タックス・ヘイブン対策税制」とは

このような不公平や不公正を招いてならない、税金は公平に課されなければならないということを指して、税金の世界では「課税の公平」という言葉が用いられます。

「課税の公平」を図るため、日本ゆかりの個人や法人がタックス・ヘイブンにため込んだ利益にも、日本の国が課税することができる税制が設けられています。その名も「タックス・ヘイブン対策税制」です。海外の所得を合算して課税しますので、「外国子会社合算税制」とも呼ばれます。

このような制度があるのは、もちろん日本だけではありません。それぞれの国がさまざまに知恵を絞って、自国よりも税金の安い国へ所得を移そうとするグローバル企業に対して、似たような国際課税の仕組みを作って対抗しています。

しかし、そのような対策を取っていてもなお、タックス・ヘイブンを利用する高額所得者はあとを絶ちません。

やはり、そこにはそれなりの節税効果が見込めるから、ということでしょう。

「パナマ文書」が問題となった理由

2016年4月、「パナマ文書」というものが世間を騒がせました。

「パナマ文書」とは、具体的にはパナマに設立された多数の弁護士を抱える法律事務所、モサック・フォンセカにおいて1970年代から蓄積されていた、過去の取引情報のことを指しています。

この法律事務所は、世界中の大手金融機関と提携して、外国人や外国法人向けに法人の設立と資産管理サービスなどを行っていました。そして、このサービスの多くは、タックス・ヘイブンで提供されていました。

顧客リストには、世界中の著名な政治家やその親戚、実業家、スポーツ選手、タレントなどの名前があがっていたのですが、どうしてこの情報があんなに騒がれたのだと思いますか?

先ほども述べたとおり、タックス・ヘイブンを経由して取引をすることは、別に違法でもなんでもありません。

問題は、それらの国では匿名での会社設立や口座の維持が認められているため、誰の会社、誰の口座なのか、表向きはわからないことになっていたことです。そのため、その会社に利益が出たり、不正な利益が流入したりしても、誰の利益になったのかがわからず、各国の課税当局は手を出せませんでした。

つまり、これらのサービスを利用することで所得を隠したり、不正なお金をきれいにしたりすることが簡単にできたわけです!

法律事務所には守秘義務がありますから、大切な顧客の情報をおいそれと外部に勝手に公表することはできません。それが、何者かによって外部に漏らされてしまったのです。

高額所得者が税金を逃れていたり、著名な政治家が、自分やその親戚は所得を適正に申告せずに税金を納めていなかったりといった実態が浮き彫りとなり、世界的に大問題となったわけです。

タックス・ヘイブンを経由した取引自体は合法ですが、匿名の会社や口座を作って所得を隠していたということになると、それは節税をとおり越して「脱税=犯罪」です! 

また脱税とまではいえなくても、本来、より多くの納税をすべき高額所得者や率先して税金を納めるべき政治家などわたしたちのリーダーが節税対策に余念がなかったということ自体が、倫理的にみて問題となったわけです。

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