はじめに

BEPS(ベップス)とは

これはいくらなんでもまずいでしょう、ということで、各国の税金に関する法律の違いを利用したり、所得を意図的に分散させたりすることによって得をしたりすることがないように、国際的なルール作りをしようという提言が国際機関によって活発になされるようになりました。

税金の問題を国際的に議論する機関として有名なものに、パリに本部をおくOECD(経済協力開発機構)があります。OECDの租税委員会は、高額所得者の行き過ぎた節税行動を問題視し、これを封じ込めるためにBEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転という意味で、略して「ベップス」と称されています)と呼ばれるプロジェクトを立ちあげました。

そして2017年6月7日、同委員会の活動が実を結び、BEPS防止措置実施条約が署名されるにいたりました。

この条約では、
1.各国間の法律の違いで生まれる税金の“穴”の発生を防止すること
2.租税条約のいいところ取りをして悪用したり、「恒久的な施設」と認定されないために人為的に事業を組み立てたりするような租税回避行為を防止すること
3.政府間の相互協議を効果的に行っていくこと
などが定められています。

基本的に、国同士は税金の取り分をめぐって争うことが多いのですが、税金を免れようとするグローバル企業に対しては、お互いに協力して闘っていこう、というわけです。

もっともこの条約は、自国のみならず相手国もこの条約を留保なしで受け入れなければ、既存の租税条約を書き換えて適用されることはありません。この問題を解決するためには、各国が足並みをそろえて積極的な取り組みを図る必要があります。

日本はすでにこの条約を受け入れ、2019年1月1日に発効しています。しかしながら、大国アメリカはこの条約に参加しないことを表明しており、2019年1月1日現在で署名していません。

というわけで、なかなか道のりは厳しそうです。

著者プロフィール
西中間浩(にしなかま・ひろし)
2011年1月より、鳥飼総合法律事務所弁護士。第二東京弁護士会(民事介入暴力対策委員会、国際委員会)所属。2017年4月より、青山学院大学法学部非常勤講師(法学ライティング)。 2019年5月より、税理士登録。主な取扱分野は、税務、企業法務、事業承継・相続など。著書に『債権法改正と税務実務への影響』(木山泰嗣 監修、税務研究会出版局)、共著に『使う?使わない?新・事業承継税制の活用法と落とし穴』(新日本法規出版)、『新・実務家のための税務相談(民法編)』『新・実務家のための税務相談(会社法編)』(以上、有斐閣)、『違法ダウンロードで逮捕されないための改正著作権法』(朝日新聞出版)など。 このほか、『税務通信』『月刊税理』『税と経営』など税務専門各誌で判例評釈を行っている。

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(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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