はじめに

数年に一度、短期金利が長期金利を上回り、市場が騒がしくなることがあります。最近、米国では10年国債利回りが政策金利の下限を下回る状況が続いています。
 
そこで今回は、「短期金利>長期金利」という現象、いわゆる「逆イールド」が何を意味するのかについて、考察してみようと思います。


そもそも逆イールドって何?

逆イールドとは、イールドカーブが逆転することをいいます。イールドカーブとは、債券の利回りと残存期間に対応する点をつないだ線のことで、「利回り曲線」とも呼ばれます。通常は残存年数が長いほど金利は高くなるのですが、短いほど金利が高くなった時に「逆イールド」と呼ばれるのです。

ここで、なぜ通常は残存年数が長いほど金利は高くなるのかを、お金の貸し借りの観点でみておきましょう。他の条件が一定であれば、長期でお金を貸すことになれば、貸し手はそのお金を長期間使えなくなり、借り手からの返済が滞る可能性も高くなります。

このように考えると、貸し手は借り手から高い金利を受け取る約束をしたくなるはずです。それゆえ、期間が長くなるほど、金利は高くなるのです。

では、金利水準はどのように決まるのでしょうか。ポイントはインフレです。たとえば、今100円を10年貸したとして、10年後の返済時にインフレでモノの値段が上がっていたとしたら、貸した時に100円で買えたモノが買えなくなります。

つまり、貸し手は10年後の購買力が下がらないように、インフレ分だけ金利を上乗せしたくなります。短期や長期など期間で金利に違いが出るのは、インフレ想定が異なるからなのです。

このことを踏まえ、逆イールドはどのような時に起きるのでしょうか。答えは、「短期的には好景気でインフレが起こり、長期的には景気が悪化してデフレになると想定される時」となります。

市場の予想が逆イールドを生み出す

仮に、短期金利が長期金利よりも高くなっても、それが原因で景気が悪くなるということではありません。中央銀行が長期金利の水準を操作することもありますが、ほとんどの場合、金利は市場参加者の多くが同意する水準で決定されるので、市場参加者の平均的なインフレ想定が反映されているからです。

つまり、市場の予想が逆イールドを作ります。米国の過去の事例を検証してみると、今回を除いて逆イールド(ここでは政策金利>長期金利)になった期間はおおよそ4回ありました。この時、市場はその後のGDP(国内総生産)成長率がマイナス、つまり景気後退となることを予想していたといえそうです。

ただし、FRB(米連邦準備制度理事会)の政策金利水準は景気後退期にすぐさま低下し、逆イールドは長く続きませんでした。FRBには物価の安定と雇用の最大化という2つの使命があるので、短期的なインフレを懸念しつつ、その後の景気後退に対応した、と考えられます。

逆イールドが起きた時

足元はこれまでと状況が違う

この原稿を執筆している時点で、長期金利は政策金利(2.25~2.5%)の下限を下回る2.0%に近い水準になっています。つまり、金融政策が実体経済を超えている状態です。

たとえば、企業が多額の設備投資を行うほど経済が過熱し、インフレが起きているなら仕方ありません。しかし、現状はそのような過熱状態にあるようにみえません。

現状は、市場参加者が経済のマイナス成長を想定しているというよりも、トランプ政権の追加的な貿易政策などに懸念を強め、FRBの対応の遅さにいらだち始めたようにみえます。

今のところ、インフレ率が上昇していないのに政策金利が上がっていることから、市場で金融政策変更への期待が高まるのは当然と思われます。今後、FRBの意志で政策金利が低下する、または、市場参加者の景気への信頼が回復して長期金利が上昇する、といういずれかによって、逆イールドは解消されると思われます。

さらに言うなら、長期金利は2016年前半から上昇を続けてきていますし、長期的に見れば、世界景気は減速サイクルにあっても、日本や欧州の金融政策の正常化を含む経済拡大のトレンドが、実質成長率や金利を押し上げる可能性を想定しておいてもよいと思います。

<文:チーフ・ストラテジスト 神山直樹>

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