はじめに

自分のパフォーマンスを「メタ認知」で点検する

外部の(一見)客観的な評価基準に頼りすぎると、自分で判断する能力が失われ、結果的にパフォーマンスが下がってしまう。このような状態に陥らないために、茂木氏は「自分で自分を評価しよう」と言っています。しかし、自己を正しく評価するのは難しいように思えます。どのように自己評価すればいいのでしょうか。

茂木氏は、「メタ認知」によって自分のパフォーマンスの度合いを点検することをすすめています。メタ認知とは、自分自身の思考や行動そのものを対象として、客観的に把握し認識することです。茂木氏は自分の仕事を例にとり、次のように説明しています。

私の場合でいえば、原稿の執筆が、まさにこの方法にあてはまります。(中略)書き終わった後で、必ず原稿を読み直すのですが、この推敲の作業がメタ認知だといえます。そこでもっと客観的な視点で自分の文章をチェックして、「この表現はこうしたほうがいいかもしれないな」などといった修正をほどこして原稿を仕上げています。(30ページ)

ただし、メタ認知を利用するときには忘れてはならないポイントがあります。それは、メタ認知のオンとオフを適切に使い分けることです。

つまり、仕事や勉強などに取り組んでいる最中は、パフォーマンスの質などを気にせずに、集中して全力で取り組んで、メタ認知を「オフ」にしておくのです。茂木氏が原稿を書いているときはまさにそういう状態です。そして、作業が終わった後にメタ認知を「オン」にして、自分のパフォーマンスを客観的に点検します。

このオンとオフを正しく切り替えないとパフォーマンスにいい影響を与えることはできません。目の前のことに取り組んでいる最中にもかかわらず、途中の経過を気にしてしまったり、いちいち自分にダメ出ししている人は、高いパフォーマンスを発揮できないでしょう。

自分のなかの基準を磨き、貫こう

このようにして自分のパフォーマンスを評価するとき、自分に甘くなってしまっては、パフォーマンスを向上させることはできません。他人や客観的な評価に頼らずに自分自身で評価を下す場合、その正当性が重要なのは言うまでもありません。

自分のパフォーマンスを正当に評価できる基準を自身のなかにつくり、それを貫くことによってさらにパフォーマンスを上げていくにはどうすればいいのでしょうか。茂木氏は以下のようなヒントを提示しています。

既存の通念や常識を疑ってみる

学生との交流も多い茂木氏は、東大生よりも、芸術大学や美大の学生に、「センスの良さ」や「自分基準の高さ」を感じることが多いそうです。なぜなら、芸術系に進んだほとんどの学生たちは、「アートでは食えないでしょ?」と周囲に反対されたにもかかわらず、自分を貫き通した強さを持っているから。彼らには、偏差値で人間の頭の良さがわかるというルール、既存の常識から離れ、自分だけの感性を磨きあげていく強い意志があるのです。だから自然と、自分の基準が鍛えられるわけです。

既存の概念や常識、凝り固まった固定概念はパフォーマンスを加速させるのには不要なものです。そうした衣を脱ぎ捨てて、思考を裸にしてみることが大事です。

他人がつくった価値観や基準を忖度しない

たとえばミシュランで星を獲得したレストランで食事をしたとき、自分ではそれほどの感銘を受けなかったとします。しかし、自分で感じたものよりミシュランの評価に重きを置き「さすが。ミシュランで星を獲っているだけあるな」と評する……。これでは、いつまでたっても自分の感覚を磨くことはできないでしょう。

茂木氏の大切な友人である白洲信哉氏(祖父は官僚、実業家として著名な白洲次郎氏)、「ミシュランなんて関係ないでしょ? 自分が『美味しい』と思える店に出会えたらそれでいい」と言ったそうです。確固とした自分の基準を持ち、ぶれることなく物事の価値を評価することができる。参考にしたいですね。

「狂気」がパフォーマンスを高める!

仕事に集中して没頭したり、何かを成し遂げようとしてハイテンションでいると「何をムキになって頑張っているんだ」「ちょっとあの人のテンション怖くない?」などという声が聞こえてきそうで、「あ、もっと冷静にならなきゃ……」と、つい自分にブレーキをかけてしまいませんか?

しかし、ここ一番というときには、「火事場の馬鹿力」のように、脳のリミッターを振り切った状態を意識的に作り出すことも必要です。茂木氏によれば、古代ギリシャでは、「何かに没頭してクリエイティブな才能を発揮する状態」を「狂気」と捉えていたそうです。また、現代でも、スティーブ・ジョブズのような傑出したクリエイターたちの狂気的な一面はよく伝えられるところです。

茂木氏からのメッセージでこの稿を締めくくりましょう。

どうやったら自分らしいキャリアを切り開くことができるのか、どこに自分に適した仕事、職場があるのだろうかといった悩みを抱えて日々仕事や勉強をしている人がいるとすれば、ここ一番というときに、いい意味での狂気的な自分をつくり出してみてはいかがでしょうか。

たとえ周囲から非難されようとも、スティーブ・ジョブズのようにわが道を貫く──この勇気や大胆さが、あなたのパフォーマンスを火事場の馬鹿力のように高めてくれるのです。(39ページ)

(記事提供:日本実業出版社


『いつもパフォーマンスが高い人の 脳を自在に操る習慣』茂木 健一郎 著


最新の脳科学を駆使して教える「自分を思い通りに変えて、有意義な人生を送る方法」。「自分」を知り、潜在的な能力を引き出して「なりたい自分」になるための脳の使い方から、高いパフォーマンスを続けるためのトレーニング・習慣までをやさしく紹介します。

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