はじめに

労働市場は個人消費の土台である

2つ目の理由が、米国経済の構造です。米国のGDPの約7割は個人消費が占めています。つまり、米国は個人消費がしっかりしていれば、おおむね経済全体が堅調であると考えられます。

この個人消費を支えるのが、労働市場動向です。失業していた人が働くことができるようになったり、働いている人の給料が増えたりすれば、人は活発に消費を行うようになるというのは、イメージしやすいと思います。

つまり、米国経済の中心は個人消費であり、その個人消費の土台となっているのは労働市場動向だからこそ、大きな関心が米国労働市場に寄せられているというわけです。

雇用の最大化はFRBの使命でもある

3つ目は、FRBに与えられた使命と大きく関係しています。FRBは米国の中央銀行に当たる機関で、米国の金融政策を司っています。

彼らには2つの使命が与えられています。1つは「物価の安定」、もう1つは「雇用の最大化」です。FRBは「雇用の最大化」を使命の1つとして金融政策を行っているので、労働市場の動向次第で金融政策の変更を行います。

2008年に発生したリーマン・ショックの影響で、米国では一時、1,000万人の雇用が失われました。そこで当時のベン・バーナンキFRB議長は未曾有の大規模な金融緩和を実施。米国は危機の震源地でありながら世界に先駆けていち早く景気が持ち直し、労働市場も大きく回復しました。

そして、米国株式市場は「100年に1度の金融危機」とまで言われた経済ショックから、わずか数年でショック前の高値を更新したのです。

雇用統計で特に注目すべき項目は?

さらにFRBの金融政策は、株式市場だけでなく、外国為替市場にも大きく影響します。為替レートの決定要因は金融政策以外にもさまざまな要因があり、一概には言えないのですが、通常、金融緩和を行うと、その国の通貨は下落する傾向にあります。

金融緩和とは、その通貨の流通量を増やすことです。流通量が増えるモノの価値は下がるという原則に照らして考えると、わかりやすいと思います。2013年からアベノミクスの一環として行われた日本銀行の異次元の金融緩和によって、円安が進んだことを記憶している方も多いでしょう。

このように、米国の労働市場の動向はさまざまな理由から、米国経済だけでなく世界経済全体にとって重要なため、労働市場の状況を最も精密に示唆する「雇用統計」が多くの投資家から注目されているというわけです。

雇用統計では非常に多数の項目が発表されますが、中でも労働者数の変化を示唆する「非農業部門雇用者数」や、労働者の待遇の変化を示唆する「平均時給」といった項目が特に注目されます。ぜひ今度の雇用統計の発表に注目してみてください。

<文:マーケット・アナリスト 益嶋裕>

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