はじめに
製造業景況指数は今後回復?
別の指標を見てみましょう。6月に発表された米地区連銀の製造業景況感指数やISM製造業景況感指数は、5月よりも弱い内容でした。特に6月17日に発表されたニューヨーク連銀製造業景況指数は5月の17.8から6月のマイナス8.6と下落し、2016年10月以来の低水準かつ同月以来のマイナスへの落ち込みとなりました。
筆者は先月の本連載で、「米国による対メキシコ関税は、米経済に対する自爆テロ行為と同じ。2020年米大統領選での再選を狙うドナルド・トランプ大統領にとって、致命傷になるため、最終的には対メキシコ関税はできない」と予想していると書きました。
その通り、トランプ大統領は日本時間6月8日午前9時半頃、「米国はメキシコと合意文書に署名。よって10日発動予定のメキシコに対する関税は無期限で停止された」とツイッターに投稿しました。
この動きは製造業景況指数に大きく影響しています。先述のニューヨーク連銀製造業景況指数の企業の回答期間は毎月1日から10日頃。トランプ大統領の対メキシコ関税の話で、先行き見通しが一気に悪化した可能性のある期間です。
一方、6月20日に発表されたフィラデルフィア連銀製造業景況指数も比較的大きな悪化でしたが、その後発表された他の製造業景況指数の悪化幅はおおむね小さなものになりました。
これは、対メキシコ関税発動が無期限延期になったことで、悪化し過ぎた景況感に改善が見られたことが理由ではないかと考えています。それゆえ、この対メキシコ関税に対する不安が解消された7月15日発表予定の7月ニューヨーク連銀製造業景況指数は、大幅に改善する可能性が大きいと予想しています。
注目の米中首脳会談を経て
また、6月29日に開催された米中首脳会談では、正式には何も決まっていないものの、約3,000億ドル分の輸入品に対する追加関税第4弾は回避されることが明らかになりました。つまり、6月と比べて、7月は景況感が改善してもおかしくないと思っています。
今回の予想以上に強かったNFPに加えて、これから発表される各種米製造業景況感の改善は、行き過ぎた利下げ期待の後退につながると考えられます。
一方で気になるのは、最近の米連銀当局者の発言の中に“予防的”な意味合いをにおわせた言葉をよく見かけることです。
以上を踏まえ、筆者は「7月は米経済指標の改善が見られるものの、嫌々ながら米国は0.25%利下げする」と予想します。
<文:チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄>