はじめに

利下げが円に与える影響は?

現状、ドル実効為替レートは高水準にあり、米国経済がドル高というハンデを負っているのは疑いようがありません。通貨高という負担を一国だけが背負うのは不公平というトランプ大統領の考えが理不尽とまでは言えないでしょう。

ただし、他国との経済ファンダメンタルズの格差に鑑み、当分の間、本格的なドル安トレンドに転じるのは容易ではないとみられます。

それでも、利下げによってドル高トレンドに歯止めをかけることは可能かもしれません。万が一、ドル実効為替レートが横ばい、または下落に転じた場合、注目されるのは「副産物」です。

世界の原材料の価格動向を示す国際商品価格とドルは、基本的に逆相関にあることが知られています。ここ数年の国際商品価格の低迷は、ドルが強すぎることに一部起因していると言えそうです。

仮に国際商品市況が反転すれば、様々な波及効果が考えられます。一つは資源輸出国の景気下支えであり、ひいては世界経済全体の押し上げにつながる可能性もあるでしょう。

また、国際商品市況の持ち直しは、世界的な物価安定基調を崩し、主要国の過度の金融緩和競争に変化をもたらすかもしれません。これまで、金融緩和余地が乏しいとして選ばれてきた円には逆風で、全般的な円高トレンドが反転する可能性も考えられます。

なお、ドル実効為替レートの下落と円高ドル安は同義ではないことを強調しておきたいと思います。ドルが多くの通貨に対して下落しても、円に対しては反対に上昇するケースもありえるのです。ちなみに、直近は全般的にドルが強い状況でも、円に対しては上値が重く、イメージするのはこれと逆の現象です

もちろん、米中貿易摩擦の長期化が世界経済や資源価格の下押し圧力となることは否定できません。一方で、鉄鉱石価格やばら積み船運賃の総合指数である「バルチック海運指数」の急騰から、中国政府が打ち出した景気刺激策が本格化し始めた兆しもうかがえます。

短期的にはリスクオンから円全面安という展開も十分想定しておくべきでしょう。

<文:投資情報部  シニア為替ストラテジスト  石月幸雄>

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