はじめに

中国の受験競争を読み解くカギ

中国は「中国製造2025」など、スローガンが好きなお国柄です。教育分野でも「中国教育958」や「211」などが重要なキーワードになると同時に、新たな「大卒」ブランドにもなっています。

「211」指定大学とは、1980~1990年代に使われていた「国家重点大学」を言い換えたもので、1995年に中国教育部が21世紀に向けて100の大学に重点的に投資していくことを定めた対象大学を指します。

現在は112の大学が211指定大学に認定されています。当時の中国は教育資金に振り向ける予算が少なく、一部大学への重点投資を通じた人材育成(幹部養成)が効率的だったという側面もありました。

もう1つの「958」指定大学とは、1998年に中国教育部がよりハイレベルな大学建設を目指す上で上記の211指定大学をさらに絞り込み、39の大学を958指定大学に認定した制度です。この39大学は世界の一流大学に引けを取らない研究教育拠点を形成し、研究水準の向上や高度な人材育成を図るため、重点的な支援を行うと教育部は説明しています。

進学率

これによって、中国では教育水準の高い211や958に指定されたブランド大学への進学熱がいっそう高まりました。また、中国企業だけでなく、外資系企業なども211や958指定大学の卒業生を採用する風潮が高まったことも理由として挙げられます。

こうした中、中国の受験生たちはこぞって非常に狭き門である211や958指定大学への進学を目指すようになりました。ただ、958指定大学は中国全土でわずか39校しかなく、大学募集定員も非常に限られていることから、中国の受験競争は一段と過熱化しました。

貿易摩擦と受験競争の意外な関係

こうした競争に拍車をかけたのが、米中の貿易摩擦です。事態が長期化する中、中国のハイテク企業などが中途・新卒採用を抑制し始めているとの指摘も出てきました。

実際、今年の中国大卒の就業率は52%にとどまっているとの調査報告もあります。これによって受験生やその両親などの間では「就職に有利な大学」という選別フィルターが今後厳しくなると予想されます。

過熱化する受験競争を背景に、中国では教育テクノロジー分野で続々と新しいサービスが誕生しています。

たとえば、宿題サポートなどを手掛ける「作業幇(ツゥオ・イェ・バン)」は注目度の高いスタートアップ企業の1つです。宿題をスマートフォンのカメラで撮影すると、人工知能が解答してくれるという優れもの。子供の膨大な宿題に悩む家庭で好評なことから、月間アクティブ・ユーザー数は8,000万を超え、全体の累計加入者数も4億人を突破しました。

こうしたエドテック(「教育」×「テクノロジー」の造語)ブームも追い風となり、香港や米国市場などでは教育ビジネスを手掛ける企業が相次いで上場しています。「学歴社会」の色濃い中国で米中貿易摩擦の長期化による就職難への不安の高まりは、教育ビジネス業界にとって千載一遇の好機になるとみています。

<文:市場情報部 佐藤一樹>

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