はじめに
最近の報道で、「予防的利下げ」という言葉を聞く機会が増えました。実際には、長期投資する前提ではあまり気にする必要はないのですが、知っておいたほうが安心できます。
今回は、何が予防的で、投資にどのような影響を及ぼすのかについて、解説します。
過去にはブラック・マンデーで実施
米国の政策金利を1980年代までさかのぼると、予防的利下げといえそうなケースは2度ほどありました。
一度目は1987年10月19日の香港市場から株価暴落が始まり、世界に伝播したブラック・マンデーへの対応です。FRB(米連邦準備制度理事会)は、市場の混乱と緊張の鎮静化に向けて、すぐさま政策金利を7.25%から6.88%に引き下げ、さらに翌年2月にかけて6.5%まで引き下げました。
二度目は1998年9~11月のロシア危機と、ヘッジファンドのLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)が破綻した時の対応です。LTCMは、ロシアなど新興国への投資で大きな損失を出したとされ、取引先の銀行とその先にある預金者や別の融資先にも不安を感じさせるものでした。そこでFRBは、金融システムの不安を抑えるために、大量の資金を供給したのです。
このように、「予防的」とは景気が悪化する前に市場心理を改善させ、銀行システムにも低金利で大量の資金を供給して安心感を高める、という意味合いがあるといえます。そして、突然のイベント発生で景気が悪化したとしても、時間差があるでしょうから、景気減速に「先手を打つ」ということになるのです。
利下げの目的は
そもそも、なぜ利下げをするのでしょうか。米国で利上げが始まった2015年末以降の政策金利、長期金利、物価の推移をみると、長期金利はおおむね上昇傾向です。2018年9月には3%に、物価も同年7月ごろまで加速して2%(前年同月比)に達していることがわかります。
米国の金利と物価の推移
ところが、2018年末辺りから長期金利も物価も明確に低下傾向になったのですが、政策金利は上昇し続けています。結果、現時点では長期金利の低下が政策金利の引き下げを催促しているようにみえるのです。
仮にFRBが利下げするならば、市場の金利水準が低下したからとはせず、物価が低下しているから利上げを止める、もしくは一時的な利下げで対応する、といったことを理由にするでしょう。
市場では、賃金が上昇しているのに物価が上昇していないために、債券が買われて金利が低下しています。これに対し、FRBが高い政策金利を維持すると、経済成長や物価の上昇への期待が後退する恐れがあります。それゆえ、FRBは「予防的利下げ」をする、と考えられるのです。