はじめに

中国のショート動画アプリ「Douyin」(抖音、国際版は日本でもおなじみの「TikTok」)で、ある動画が話題となりました。

「大学生の時に入った199元の恋愛保険。3年後、結婚証明書で本当に1万本のバラを受け取りました!今、式場に並べています!」

中国において、2016年頃に話題となった恋愛保険。そもそも恋愛に保険をかけること自体がどうかと思いますが、多くの契約期間が最短で3年以上となっていたため、2019年に入って給付が始まっています。現状はどのようになっているのでしょうか。


恋愛保険とはどんな保険か

一般的に、「恋愛に保険をかける」と聞いて、イメージするものは何でしょうか。たとえば、本命に告白してフラれたらツラいので、第2の本命にもそれとなく好意を伝えておく。あるいは、失恋した場合(損失が発生した場合)の傷心旅行代や食事代などでしょうか。

しかし実際はその逆で、契約時に指定した人と一定の免責期間(多くが3年間)以降10年以内に正式に結婚した場合、ご褒美として、冒頭のバラの花1万本や、ダイヤモンドの指輪、新婚旅行代としてお祝い金が支払われる保険なのです(加入した保険、保険料の多寡によって異なります)。

恋愛保険への加入理由は、「バレンタインデーなどで相手への気持ちを確かめるため」だったり、純粋に「面白い」というものだったり、ただ単に「新しい」など、さまざまです。

中国のバレンタインデーは日本と逆で、男性から女性にプレゼントを渡します。恋愛保険であれば、物品や食事などありふれたプレゼントとは違いますし、199元(日本円で3,000円ほど)ということで、それほど高額でもありません。しかも、将来に向けた自分の気持ちも伝えられます。

こうした理由から、中国の若者の間で受け入れられていったとみられます。しかし、実際の契約者は実は女性が大半を占めたようです。

免責期間3年間がミソ

それでは、販売する保険会社側にとっての狙いはどうでしょうか。

彼らが恋愛保険を設計するにあたり、付き合い始めた恋人が3年以内に別れる確率は98.39%、つまりほとんどのカップルが別れると見積もっていました。よって、恋愛保険に加入し、(免責期間である)3年以内に結婚した場合、給付は受けれられない、という設計になっています。

恋愛保険が話題となった2016年前後は、国家戦略「インターネット+(プラス)」政策の後押しもあり、スマートフォンが普及し、それに伴うさまざまなネットサービスが一気に拡大していた時期でもあります。アリババなどのプラットフォーマーなどを中心に、若者に受けそうな、目に止まりそうなネット保険の開発も進みました。

たとえば、渋滞保険(配車アプリ「DiDi」を使って乗車し、時間帯や距離など一定以上の条件下で渋滞が発生した場合に給付)、高齢者救助保険(倒れた高齢者を助けた若者が加害者にされたうえ、治療費を請求されるという事件が多発した背景から、助けた側の訴訟代などを補償)など、ニッチな保険商品がたくさん開発されました。

恋愛保険は“保険”にあらず

このように次々に開発されるネット保険に対して、2018年1月には監督官庁が待ったをかけました。恋愛関係の維持を給付条件とする恋愛保険は、中国保険法の規定に合致しておらず、保険商品にも該当しないとしました。この通知によって、現在は恋愛保険の販売は行われていない状態です。

確かに、恋愛保険など一部のネット保険は、保険商品としては不完全であったのかもしれません。しかし、従来型保険のような損失やリスクの補填だけではなく、(少なくとも)加入時点での将来への期待を形にしておくのはユニークな発想といえるでしょう。

現在も中国のプラットフォーマーがさまざまな保障プランを生み続けている背景には、低いコストで、「あったらいいな」といった前向きな気持ちや、将来に希望を持てる状況をサポートするといった、ユーザーの気持ちに最も近いところにいるからかもしれません。

結婚式に1万本のバラの花があったら……ちょっと大変ですけど、それはそれでステキなことだと思えませんか。

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