はじめに
メンバーの不公平感を強めるメカニズム
これはオリンピックに限ったことではありません。仕事の目的や評価方法、そして仕事を任せるメンバーの選定基準が不明確なまま、リーダーのその場の思い付き(勘)で決める。もしくは、選定理由が不透明であり、よくわからないうちに決められていると、メンバーの不公平感が強まり、ついには組織への不信感につながります。
こうなると、「自分が疎(うと)まれているのではないか」「彼/彼女は贔屓(ひいき)されているのではないか」と、メンバーの意識が仕事自体ではなく、周囲に向き始めていきます。
もう1つ、不公平感を生み出すのは、誰かと「比較」したくなる気持ちです。
米国の心理学者であるL.フェスティンガー(1954)は「社会的比較理論」を提唱し、客観的に自身の能力を把握できない時ほど、自分と立場などが近い他者と比較して確認しようとする人間の習性に注目しました。
学校のテストのように合格点が決まっていれば点数で判断ができますが、自分への「期待役割」が不明確な仕事では、「他のメンバーより劣っていないか」が気になるものなのです。
信頼を高めるための2つのコツ
メンバーに対して、期待役割(何をどこまでやれば合格か)を明確に伝えること、仕事を任せる選定基準(どんな人に任せるのか)をオープンにすることが、公平性を高めることになります。しかし現実には、すべての仕事をオープンにできないことや選定基準どおりに仕事を任せられないこともあります。
そこで、もしメンバーが不公平を感じていた場合に、それを意見できる開放的な職場の雰囲気を作ることが、次に大事になります。メンバーが不満を口にできず、ストレスをため込んでしまうことのないように注意をしましょう。
豪州のソフトウェア企業であるアトラシアンの調査(2018)によると、自分の能力・スキルをもっと発揮するために、直属の上司に最もしてほしいことは、以下のようになっています。
1位: 自分の役割やゴールを、自分の納得いく形で明確にする (24.4%)
2位: 部署の誰もが自由に意見・アイディアを出し合える雰囲気を作る (15.4%)
3位: 自分の判断・能力を尊重・信頼する (14.1%)
この結果は前述の解決策とも共通点があり、公平な仕事の割り当てをすることでリーダーへの信頼が高まるのではないかと思います。
来年の7月に開幕する東京オリンピックに向けた代表選考では、競技ごとに選考基準がオープンになり、公平性を高める取り組みが進んでいます。多くのアスリートが目標を明確に持ち、納得してレースに臨めるようになることが、好成績につながると信じています。
皆さんの職場においても透明な選定基準と明確な期待役割を意識し、公平な仕事の割り当てを実現することができれば、メンバーのやる気や組織のパフォーマンスも高まるのではないでしょうか。