はじめに

障害を持つ子を抱えた時、遺言書の作成が必要になる理由

そして、親なきあとを考えるなら、夫婦お互いに遺言書の作成は必須です。

例えばご主人が先に亡くなってしまった場合、相続人になるのはあさこさんとハナちゃんです。この時、遺言書がなければ、あさこさんとハナちゃんで遺産分割協議をしなければなりません。けれど、ハナちゃんには判断能力がありませんので、遺産分割協議ができないということになります。

では、どうなるのか。

家庭裁判所に成年後見人選任の申し立てをして、ハナちゃんに後見人をつけてもらい、その後見人とあさこさんで遺産分割協議をすることになります。ご主人の財産を、あさこさんとハナちゃんで2分の1ずつ相続することになります。

「2分の1ずつ相続できたら良いのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、ハナちゃんが相続した財産は、家庭裁判所の許可がないと原則引き出しができません。家庭裁判所の管理下に置かれるということです。

また、一度法定後見人を選任すると、遺産分割が終わったからといって解任することはできません。特別な理由がない限り、ハナちゃんには一生、後見人がつき、お金の管理は後見人が行うことになります。そのため、母親のあさこさんは、ハナちゃんの財産を管理することができなくなるのです。

法定後見人は、弁護士、司法書士、行政書士等の専門家が就任することが多く、仕事として請け負うので報酬が発生します。つまり、ハナちゃんが生きている間、払い続けることになります。

もし遺言書が残されており、「全財産を、妻あさこに相続させる」という内容だったなら、遺産分割協議をせずにあさこさんに全財産を相続させることができるのです。もちろん、ハナちゃんに後見人をつける必要もありません。

ご夫婦ともに、万が一の時に備えて遺言書を書くことが大切です。30代、40代でも書くのに早過ぎるということはありません。ご家族の状況に応じて遺言書の内容も異なってきますので、作成の際は専門家に相談することをおすすめします。

子供のことを心配するあまり、親御さん自身の老後や相続の準備がされないまま、親なきあとを迎えてしまうことだけは避けていただきたいと切に思います。

内にこもらず外に目を向けて

いま、障害を持つ子供の親や兄弟など親族の立場で、同じ不安をもった方々への情報提供や個別相談等を行っている団体があります。団体のメンバーは、法律、金融、住まい等のプロの集まりで、残された我が子が笑顔で暮らしていける、そんな社会を目指して活動しています。

外に目を向けることで、いろんな情報を得ることができます。さまざまな選択肢の中から状況に応じて、その時に適した制度等を使い分けていただければと思います。

<文:税理士 藤原由親>

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