はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。
今年の春から新社会人になりました。入院やケガをした時のためにというよりも、満期になると一定額が戻ってくる積立型の保険を考えています。積立型にも、死亡保障だけや医療保障付きなど、さまざまなタイプがあると思いますが、新社会人におすすめのものを教えてください。結婚などを機にほかの保険を検討することもあり得るので、あまり月々の支払いが高くならないものが希望です。
そして、これから結婚、子育て、老後など変化するライフステージでの見直しのタイミングや選び方など、保険とのよい付き合い方を教えていただけるとうれしいです。
(20代前半 独身 男性)
野瀬: 4月、5月は保険勧誘シーズンですね。毎年この時期にカフェに行くと、となりのテーブルから「社会人になったら保険に入るのは常識」「たとえ独身でも、万が一の時に自分の葬式代ぐらいは出すのが常識」「お客様の場合、月々このくらいが通常で……」といった会話をよく耳にします。
ほとんどの方が、言われるがままにその場で契約を了承してしまっているのですが、保険は固定費であり、出費が何年も続くものです。家の購入ほどではないにしても、トータルでは車とたいして変わらない出費になりますので、家や車と同じぐらい慎重に商品を選びたいものです。
保険選びの基本コンセプト
保険選びの基本コンセプトは、「なかなか起きないが、起きてしまったら自分ではどうしようもないリスクに備える」というものです。
このコンセプトに従った場合、独身社会人が保険でカバーすべきリスクは、重度の病気やケガにかかり、通院や入院が必要になったケースだけではないでしょうか?
言葉は悪いですが、奥さまやお子さんがいない以上、もし亡くなられても路頭に迷う人はいないと思います。
また、保険屋さんがよく使う営業トークで「葬式代ぐらい」というものがありますが、若くしての死は突然訪れるものですので、仮にご質問者の方が亡くなっても預金がある程度残っていると思います。
また、条件によりますが、死亡時には公的年金からいくらかの死亡一時金が出ます。さらに最近は、葬儀代も下落傾向にあり、これらを総合的に考えると「葬式代ぐらい」というロジックの根拠は乏しいと思います。
「社会人なら保険に入るのは常識」「このくらいが通常」というのも同様に、なんの根拠もありませんので、意識しなくてよいと思います。
結論として、独身社会人のうちは医療保険のみでよいかと思います。ネットの保険会社だと月々3,000~4,000円ぐらいのものでしょうか。若いうちはお給料もそれほど高くありませんので、これくらいが負担ができるラインかと思います。
ご相談にもありましたように返戻金があるタイプの保険もありますが、毎月の支出が大きくなります。お給料がまだ多くない20代の場合は家計を圧迫する可能性が高いです。
仮に返戻金を期待するとしても、当然ながらそこから保険会社の利益が差し引かれますので、それであれば自分で積立投資を行ったほうがよいと思います。
将来の保険の考え方
さて、ご質問者の方の「状況が変わった場合」の保険についてです。
繰り返しになりますが、保険の基本コンセプトは「なかなか起きないが、起きてしまったら自分ではどうしようもないリスクに備える」というものです。
この要件に該当するのは、以下のようなパターンでしょう。
パターン1:奥さまが専業主婦
パターン2:奥さまが専業主婦+お子さんに教育費が必要、もしくは奥さまに所得があるも心許ない+お子さんに教育費が必要
パターン3:老後の医療費
時系列としてはパターン1、2、3の順に発生すると思いますので、状況に応じて保険を検討するとよいでしょう。
1の場合は、死亡時に奥さまが生活に困るので、死亡時に多額の保険金がもらえるように掛け捨ての死亡保障重視の保険商品がよいでしょう。また、医療保障も引き続き独身時代のものを続けておけばよいと思います。
2で重視するべきことは、亡くなったときの奥さま・お子さんの生活費とお子さんの教育費です。このあたりの保険商品は奥さまの所得によると思いますが、基本的には1と同じ考え方でよいと思います。
ただ、教育費などがありますので、保障額は1よりも大きくなるようにプランを少しよいものに変えるとよいでしょう。
3の時期になると、お子さんも独立されているので、不安になるのは医療費だけでしょう。さらにこの場合であっても、現状の健康保険制度であれば、高額の医療費は社会保険でカバーされますので、そこまで手厚い保険は必要ないと思います。医療費の負担増によって、老後資金が毀損されることを防ぐくらいの意識でよいと思います。
保険はあくまでも保険と考えよ
結論として、(0)独身、(1)結婚、(2)育児、(3)老後の4つのフェーズに人生を分けて、死亡保障は(1)と(2)のフェーズにおいて掛け捨ての定期保険、医療保険は(1)(2)(3)のフェーズにおいて掛け捨ての終身保険でよいかと思います(場合によっては0も)。
医療保険については老後になってからは加入が難しいものもありますので、安めのものをに(0)(1)の若いうちから加入すればいいかと思います。
貯蓄型の保険に加入したい気持ちはわかるのですが、あくまで保険は保険です。
もし貯蓄や運用をしたいのであれば、定期預金や投資信託、現物株などで対応すればよいでしょう。保険を掛け捨ての安いものにして、その分を投資や貯蓄に回すイメージです。