はじめに

スーツのトリビア聞く楽しさも

体形を測った後は、いよいよフィッティングです。フィッティングルームで「ゲージ服」と呼ばれるサンプルを着ます。鈴木さんは、プロの目を光らせ、次々と細かい部分をチェックしていきます。

「ジャケットの前が少し上がっていますね。直しましょう」と鈴木さん。ジャケットは1.5センチほど前下がりのほうが美しく見えるそうです。

試着
シルエットの違うスーツを試着する。タイプによってフォーマル度が変わる

また、「スーツは肩で着る」と言われるように、肩回りがフィットしているかどうかで、全体の印象が大きく変わります。スーツの肩が少し前に出ていたので、肩回り、背中も補正しました。

フィッティングをしながら、鈴木さんはさまざまな「スーツのトリビア」を披露してくれます。たとえば、スーツのスタイルの1つ「ナポリスタイル」は、ジャケットの袖の部分に独特のギャザーがつきます。イタリア語で「マニカカミーチャ(シャツ袖)」と呼ばれ、肩回りが動かしやすいというメリットがあるそうです。

パンツは、ウエストはジャストサイズでしたが、スーツのセンターラインが外側に寄ったため、中央にくるよう直しました。同社によると、一般的なパターンオーダーの補正は5ヵ所ほどですが、Aoki Tokyoでは最大24ヵ所の補正を施します。

フィッティングを終え、最後にボタンや裏地を選び、オーダーは終了。カウンセリングから生地選び、採寸まですべての行程が終わるまでに1時間30分ほどかかりました。

AOKIがここまで力を入れるワケ

スーツの価格は、1着3万8,000円(税別)、2着では4万8,000円(同)。フルオーダー並みのこだわりの一着がパターンオーダーの価格で手に入るとあって、利用客の反応は上々とのこと。2着買いがお得なので、友人や会社の同僚と来店する人もいるようです。

完成までは約3週間。オーダースーツを自宅まで配送するメーカーが多い中、店舗で試着してもらうのもAoki Tokyoのこだわりだそうです。フィットしない部分があれば直すという理由に加え、試着した人の感想を聞き、リピーター獲得につなげる狙いもあります。

クール・ビズをきっかけに、職場で着る服がカジュアル化し、スーツ離れが加速している昨今。三井住友銀行が服装に関するルールを見直し、東京と大阪の本店勤務の行員を対象に、通年で服装を自由化したことは、ニュースやSNSで大きな話題になりました。

総務省の「家計調査」によると、農林漁業世帯を除いた1世帯当たりの背広服の年間購入額は2017年が5,217円。ピークだった1991年の1万9,043円に比べると、4分の1近くにまで減っています。

この逆風を受けて、紳士服メーカーは苦境に立たされています。AOKIホールディングスを含む、紳士服大手4社の直近決算期の業績は全社が減収減益。ロードサイドで安価な既製服を大量に売るビジネスモデルは通用しなくなり、各社とも事業の見直しを迫られています。

既製服のイメージ一新なるか

こうした中、既製服を売るイメージが強い「AOKI」とは別の路線ということを強調するために、ブランドロゴも「Aoki Tokyo」と違いを出したといいます。

Aoki Tokyoは「フルオーダーに近いパターンオーダー」で他社との違いを出していく狙いです。2025年までには、他のオーダースーツ事業と合わせて100億円の売り上げを目指します。

ゲージ福
「ゲージ服」と呼ばれるサンプルは、カラーを幅広くそろえる。仕上がりがイメージしやすい

「店舗の稼働率はまだまだ上げる余地があります。オーダースーツと言えば、AOKIと連想してもらわなければ、生き残れません」(熊谷ブランドマネージャー)

2018年にはスーツのサブスクリプションビジネスに参入しながら、わずか半年で撤退したAOKI。そんな“苦い教訓”もあるだけに、新業態への力の入れようはかなりのものです。

銀座、池袋と展開してきて、3店舗目は新宿に進出。仕事帰りに注文していたスーツを取りに来やすい出店戦略をとることで、リピーターの一層の取り込みを狙います。

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