はじめに

「ドイツは構造的脅威に直面している」

ブレグジットの影響も軽視できません。いわゆる「合意なき離脱」の可能性が高まるのに伴い、英国への投資を手控えようとの機運が台頭。化学や工作機械などのメーカーには逆風が吹きつけています。

こうした中で勢いを増しているのが、ドイツの財政出動のシナリオ。その根底にあるのは、「世界全体に産業のサービス化の流れが強まる中で、過度に輸出へ依拠したドイツの経済モデルは陳腐化している」という見方です。

「ドイツは周期的なショックではなく、非常に大きな構造的脅威に直面している」――。著名なエコノミストはフランスの経済紙「レ・ゼコー」とのインタビューで、こう指摘しています。

「構造問題を短期間で解決するのは難しいから、ひとまず財政刺激策で景気浮揚を図るしかない」。ECBのドラギ総裁の真意は定かでありませんが、財政出動論者にはそう考えている人が少なくないかもしれません。しかし、財政規律を重んじるドイツは、今のところ、財政出動に慎重な構えをみせています。

ドラギ総裁が伝えたかったメッセージ

ECBの金融緩和決定を受けて、外国為替市場ではユーロが一時、値下がり。ところが、ドラギ総裁の会見後には、一転して買い直される展開になりました。チャート上では、下げ止まりを示唆する、長い下ヒゲを示現した格好です。

「財政出動の必要性に何度も触れたのが一因」。長年にわたって外為市場を見続けてきた専門家はそう説明します。つまり、「ドラギ総裁自身が“金融政策でできることは限られている”と思っているのではないか」と市場は解釈したというわけです。

一部の海外メディアの報道によれば、理事会ではフランス、ドイツ、オランダ、オーストリアの中銀総裁が量的緩和再開に反対したといいます。ECBが“手詰まり”状態に陥ってしまうことを恐れたのでしょうか。

ユーロ景気の“機関車”であるドイツ経済の変調、そして量的緩和政策をめぐる不協和音……。ラガルド新総裁は多くの懸案を抱えての船出になりそうです。

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