はじめに
8月以降に大きく低下してきていた世界各国の金利が、9月以降、反転の兆しを見せています。
「金融資産は日本円と日本株くらい」という投資家にとって、世界各国の金利が動いたといわれても、あまりピンと来ないかもしれません。しかし、足元の債券市場の変化は、株式市場にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
異例の超低金利反転の予兆
欧州や米国の中央銀行は9月に相次いで金融緩和策を発表しました。米連邦準備理事会(FRB)は同月18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を0.25%引き下げ、7月に続く利下げを行っています。
欧州中央銀行(ECB)も、9月12日に開催した定例の理事会で、金融機関がECBに預金をする際に適用する預金ファシリティ金利を-0.4%から-0.5%に引き下げました。このほか、昨年12月に終了した資産買い入れプログラムを再開し、月額200億ユーロの債券購入を無期限で実施するとしています。
教科書的には、中銀が金融緩和を実施すると、市中に出回る貨幣の量が増えるので、金利は低下します。しかし今回は、米国の10年債を例にとると、9月初頭の1.5%前後から同月中旬には1.9%近傍まで金利が上昇しました。
このように欧米が金融緩和を行う中で、金利が反転の兆しを見せたのはなぜでしょうか。
なぜ金利は上昇に転じたのか
確かに、ECBは月額200億ユーロの資産買い入れプログラムを発表しました。しかし、「一国が発行した国債の買い入れは33%まで」という上限に変更がなかったため、むしろ買い入れの限界が近づいたとみられています。
FRBも今回は利下げを行いましたが、先行きの金融政策を占う8月の消費者物価指数(CPI)が、コア物価指数(食品・エネルギーを除く)で前月比0.3%上昇、前年同月比2.4%上昇するなどインフレ率が高まる兆しがあります。
経済予想サマリーでは2019年末と2020年末のFF金利(フェデラルファンズ・レート)の中央値が1.90%となるなど、利下げの打ち止め感が出ています。そのため、マーケットは今後さらなる金融緩和は望みづらいとみて、金利が反発しているのです。
あなたの保有株はどうなる?
では、こうした債券市場の変化によって、株式市場にはどのような影響があるのでしょうか。
2019年に入ってからの株式市場では、金利低下を反映してREIT(不動産投資信託)などの利回りが高い商品や、グロース株と呼ばれる売り上げや利益の成長率が高い銘柄が買われてきました。この先、金利低下が一服すれば、このような銘柄に対する物色も落ち着いてくる可能性があります。
一方で売られてきたのが、金利低下で悪影響を受ける銘柄です。銀行株や保険株は、金利低下による運用環境の悪化が懸念され、株価が大きく調整してきました。この先、特に中期や長期の金利が上昇基調となれば、運用環境が改善することにより、株価も回復してくる可能性があります。
日本銀行も低下しすぎた中長期の金利を修正する動きを見せており、9月20日の国債買い入れオペでは長期と超長期の3ゾーンの買い入れ額を減額しました。残存期間5年超10年以下の買い入れ額は200億円、10年超25年以下を200億円、25年超を100億円減額しましたが、こうした3ゾーンの同時減額は2016年9月の長短金利操作の導入以降で初めてです。
このように、債券市場をめぐる環境は、これまでの金利低下一色の流れから徐々に変わりつつあります。基本的に債券市場は株式市場と裏表の関係にあるため、債券市場の変化は追って株式市場にも影響を与えてくることが予想されます。株式投資家としては、債券市場の変化の度合いに注目しておき、投資戦略を見直しておくと良いでしょう。
<文:シニアマーケットアナリスト 窪田朋一郎>