はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する大竹のり子氏がお答えします。

一般的にアメリカ人はあまり貯金をしない、という話を聞いたことがあります。年に何度も休暇を取って旅行に出かけたり、コンサートに出かけたり、一見豪華な生活をしているように感じます。


貯金を気にしないのは、単に文化の違いなのか、社会保障制度・経済の仕組みの違いなのか、どこに理由があるのでしょうか。また純粋な疑問として、彼らは貯蓄しないことでなにかデメリットを被っていないのでしょうか。
(30代前半 既婚・子供なし 女性)


大竹: 確かにアメリカ人と聞くと、夏季休暇やクリスマス休暇を長期でとったり、頻繁にホームパーティをしたりと、日本人と比べ、人生をより謳歌しているイメージがありますね。

社会保障制度についていえば、日本は「国民皆保険」といわれるように国民すべてがなんらかの公的医療保険制度に加入しています。病院に行っても自己負担額は原則3割で済みますし、高額療養費制度もあります。

一方、アメリカでは自由診療が基本となっています。医療費が原因で自己破産する人もめずらしくないのが現実です。公的年金制度も、老齢・遺族・障害保険(OASDI)がありますが、日本と同様、高齢化によって深刻な財政問題を抱えています。

したがって、おそらく「社会保障制度がしっかりしているから貯金しなくてもよい=人生を謳歌できる」ということではないでしょう。私が思うに、その大きな理由は価値観にあるように思います。

日米の価値観の違い

例えば、有給休暇制度。日本の企業にも制度そのものはしっかり整備されていますが、実際に自由に取得できるかというと、上司や周りの目が気になったり、仕事が回らなかったりして取得できないままになっているというケースはめずらしくありません。

旅行そのものの費用は別としても、長期で休暇をとるかとらないかは、貯金を気にするかどうかよりも価値観の問題ともいえます。

自分の老後生活や子供への遺産として、どのぐらい貯金を残しておくかという価値観にも差があります。過去の調査では、日本人の遺産は平均すると年間可処分所得の約20倍となっているのに対し、アメリカ人の遺産は約5倍でした。

さらに貯金そのものを、どれだけ重要視しているかという価値観も異なると思います。

アメリカには投資文化が浸透

確かにデータなどによると、アメリカ人の平均貯蓄額は約50万円ともいわれ、「これで大丈夫なの!?」という印象を受けます。

その一方で、アメリカには投資の文化が浸透しています。貯金金額は少なくても、株式や投資信託、貯蓄型保険などでほかに資産がある場合がほとんどです。

さらに年金についても、公的年金だけでなく、確定拠出年金をはじめとする私的年金によって、老後のお金を「自分で用意する」「原資を運用して増やす」という意識が高いといえます。

こうしたことを総合的に考えると、アメリカ人は「貯金を気にしない」というよりも、「貯金以外のことに意識が向いている」というのが実像といえるかもしれません。

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