はじめに
1、会社の儲けのパワーを知る
A社の売上額を年間4,500万円。そして変動費の合計を3,500万円とします。この会社の経営状態を見てみましょう。
売上:4,500万円
変動費の合計:3,500万円
限界利益額:1,000万円
先ほどの式で計算してみると、「1,000万円(限界利益額)÷4,500万円(売上)×100」で、A社の限界利益率は22.2%となりました。
この「22.2%」という数字は「儲けパワー」としてどうなのでしょうか。本書によれば、目安として、限界利益率25%以下で黒字化している会社は少ないと書かれています。そのため、会社は数字を読むうえで、最低限25%以上に限界利益率を高めることを意識することを忘れてはいけません。
2、商品単品の儲けのパワーを知る
次は、A社で扱っている商品の中の1つを見ていきましょう。ある商品αは1つ2,000円で売られていて、変動費は1,600円。なかなかコストがかかっているようにも見えますね。計算してみましょう。
売上:2,000円
変動費:1,600円
限界利益額:400円
「400円(限界利益額)÷2,000円(売上)×100」で、限界利益率は20%で、やや低めです。商品がたくさん売れることで、売上は上がりますが、本質的な利益にはつながりにくい商品だということがわかります。つまり限界利益率の低い商品ばかりを扱っていると、「売上を上げれば、会社にお金は残る」という考え方では儲からないということになってしまうのです。
値下げをすれば企業がブラック化するのは当然?
限界利益率は、値下げや値上げの基準にもなります。
値下げをすれば当然、限界利益率が落ちますし、値上げをすれば一品あたりの限界利益率は上がるでしょう。
値付けを検討するとき、「値下げをしても原価割れにならなければ、たくさん商品を売れば薄くとも利益が積み重なり、儲かるようになるはず……!」と考える経営者も少なくないようです。しかし、そのように安易な値下げに走ってしまうのはかなり危険な発想。
なぜなら、10%オフでも限界利益率に大きなダメージを与えてしまうからです。先ほどの2,000円の商品を10%オフにして1,800円で売ったとしましょう。
売上:1,800円
変動費:1,600円
限界利益額:200円
すると「200円(限界利益額)÷1800円(売上)×100」となり、限界利益率は11.1%で約半分になってしまいました。
「それでもたくさん売れば儲かる」と考えるのは「思考のブラック化」にほかなりません。仮に3倍売り上げないと元が取れない場合、客の回転率も3倍に上げる必要があります。すると、スタッフ一人ひとりに無理を強いることになってしまうかもしれません。
一方で、新たなスタッフを雇うと固定費増につながり、結局、スタッフのお給料のために売上を確保するという、より過酷な経営を強いられます。固定費を抑えつつ、仕事量を増やすというのは限界があるのです。
一番の問題は価格設定です。安くすれば人は集まるかもしれませんが、だからといって会社そのものを幸せにするとは限りません。限界利益率をつかい値下げ時のシミュレーションをちゃんと行わないと、大赤字になってしまうこともあるのです。
理想は限界利益率の高い商品を作ること。それは、ひいてはお客様にとって本当にニーズのある商品ともいえます。そうしたものを作るために、経営者は日々考えなければならないのです。
古屋さんは、著書の中でさらに具体的な「数字」をつかった値付けの方法、利益の出し方を実例を交えながら説明しています。
こうした数字をつかえる人はビジネスに強くなれます。皆さんも身近な商品などを例に自分が働いている会社や、投資を考えている企業の「儲けパワー」を調べてみるとおもしろいかもしれませんね。
「『数字』が読めると本当に儲かるんですか?」古屋悟司 著/田中靖浩 案内人
ずっと赤字体質だったのが、スゴ腕の税理士から「管理会計」について教わったとたん、V字回復して黒字が続いているという、著者の実話をもとにした超実践的な会計入門。「変動費はストーカー経費」「黒字化するには細マッチョの体質」など使える知識が満載。