はじめに
なかなか減らない特殊詐欺。ニュースを見ながら、「これだけ注意喚起されているのに、なんで、だまされるんだろう?」と思う人もいるかもしれません。しかし、詐欺や悪質商法に詳しいジャーナリストの多田文明さんは、「『私はだまされない』という人のほうがだまされやすい」と言います。
手を変え品を変え、だまそうとしてくる特殊詐欺の“トレンド”について聞いた前回に続き、今回はだまされないための「ガードテクニック」について伺いました。
――どうして、「だまされない」という人のほうがだまされやすいのでしょう?
前回、お話したように詐欺の手口は日々、変化しています。たとえば、「子供の声はわかる」と思うかもしれませんが、甥や孫を騙って電話をかけてくることもあるし、方言版の詐欺マニュアルを作っていたグループもあります。
――方言マニュアル!
先日、中国の延吉を拠点にしていた特殊詐欺グループのサブリーダーが捕まりましたが、彼らの手口も巧妙ですよ。デパートの店員を騙って、電話をかけてくるんです。
――デパートの店員?
「あなたのクレジットカードでハンドバッグを購入しようとした人がいて、本人確認をしようとしたら逃げてしまいました。あなたは、クレジットカードを作っていますか?」というところからはじまるんです。個人情報が悪用されているかもしれない、キャッシュカードも偽造され、お金をとられているかもしれない、と不安にさせるんです。
それから、銀行協会に電話をするよう促し、被害者が銀行協会に電話をかけると、キャッシュカードを取り替えるという話になって、暗証番号も聞き出されてしまう。
――混み入ったシナリオですね。
どんなに「オレオレ詐欺にはひっかからない!」「ATMに入金と言われたら詐欺!」だと注意していても、クレジットカードの不正利用、こんな思いもよらないシチュエーションでこられたら、わからないですよね。「自分はだまされない」と過信していると、臨機応変に考えられなくなってしまうんです。
――では、だまされないために必要なことは何でしょう?
ひとつは、「質問する力」ですね。詐欺師は、ずっと言葉たくみにしゃべり続けてきます。多くの人が途中で「あれ? おかしいな?」と思うんですが、そう思いながらも話を聞き続けてしまう。疑問を抱いたら、一回、相手の話を遮って、質問をするんです。日本人は案外、それができないんですね。
――できそうで、できないですね。
で、なし崩し的に話をされて、向こうのペースに乗ってしまう。逆に、疑問をぶつけることで、向こうのペースを崩すこともできます。
先日、うちに訪問販売が来たんですが、最初、「ポストに入れたアンケート用紙の回収にきました」と言うんです。ドアは開けずに、「目的は何?」と聞いたのですが、「ですから、アンケート用紙を」としか言わない。
だから、何度も何度もしつこく「そんなものは知りません。目的は営業でしょ?」と言い続けると、「……はい」と言うので、「じゃあ、結構です」と。結局、何も言わずに帰っていきましたよ。
――確認は大事ですね。
特殊詐欺とは違いますが、千葉の台風災害で悪質業者の被害が出ていますよね。彼らもぜったいに、最初から目的や料金を言わず、無料で作業するようなフリをして近づいてくる。お金がいくらかかるのか、曖昧なまま、先に進んではだめなんです。訪問販売や勧誘の場合、いちばんは「いりません」と淡々とそれでいてきっぱりと断る。それができないときは、小さなうそをつくといいですよ。