はじめに
――小さなうそ?
「いま、時間がないんです」「お客さんが来ているので、話ができない」「ガスに火がついているので」など、なんでもいい。向こうのペースに乗せられる前に、火の粉を払うように拒絶するんです。
それができず、相手の話が始まってしまったとしても、途中で遮ればいい。これもまた苦手な方が多いのですが、そもそも、突然、家に来たり、電話をかけてきたり、失礼なのは向こうなんだから、話の腰を折るくらいたいしたことではありません。「あのですね」「ちょっといいですか?」と言葉を遮って、「これ以上のお話は時間がないので結構です」と。
――特殊詐欺の場合はどうでしょう?
やはり、「小さなうそ」をつくことで、だましの手口を見破ることができます。息子を名乗っているけれど、「声が違うんじゃないか?」と思ったとき。たとえば、先週、電話でしゃべったばかりだとしたら、「久しぶりだね」と言ってみる。「そうだね」と言えばニセモノだし、逆に、本当に久しぶりの電話だったら、「先週も電話をしたのにどうしたの?」とうその話題をふってみる。
これが「声どうしたの?」と聞いてしまうと、「風邪をひいたんだ」とマニュアル通りの返答で交わされてしまいます。マニュアルにない不意うちの質問が有効なんです。
――そこまで演技ができるかどうか……。
基本、「めんどうくさい人」になればいいんです。詐欺師は騙しやすい人を狙います。彼らだって効率よくやりたいし、通報されたら困る。やたら確認してくる人やマニュアルどおりに話を進めさせてくれない人に対し、しつこくはしません。
アポ電のアンケートだって、うそをついたっていいし、「ちょっとごめんなさい、答えられません」といえば、この人、ガードが固くてだましにくいなと思わせられる。
逆に、「印象を悪くしたくない」といった気持ちがあると、そこを詐欺業者や悪質業者はついてきます。
――人を疑いたくないし、「いい人」だと思われたいです。
仮想通貨やレンタルオーナー商法、マルチ商法などのトラブルも依然として多いのですが、こうした投資詐欺にひっかかりやすいのが、人を疑えないタイプ。勧誘してきた知人に対し、過度に信頼を置きすぎてだまされるというケースは少なくありません。
中高年の女性に多いんですが、「この人はうそをつかない」「この人が言うんだから大丈夫」と思いこんでしまう。そうなると、自分で内容を確かめなくなってしまうんです。
――だまされたときのショックも大きいですよね。
高齢者が無茶な投資をしてしまうのも同じ。「営業がすごく親切でいい人で優しかった」その人柄にひかれて、「この人が言うなら大丈夫」と。
――かんぽ生命の不正保険販売も「郵便局」という看板で信用させました。
あれもひどい話ですよね。看板を使って契約をさせるのは、騙しの常とう手段。それを局員自体がやっていたのですから、話になりません。一方、若者に多いのが、先輩や親しい友達に誘われて、「この場の空気を乱したくない」「この関係が壊れてしまうのでは」と、疑いをもっていても断れないパターンです。
勧誘者への評価と商品のよさはイコールではないし、契約を断ることと人間関係は別のはずなのですが、客観的に考えられないんですね。
――詐欺だったかも? 変な勧誘に乗ってしまったときは、どうしたらいいですか?
必ず、どこかに相談することです。「消費者ホットライン」188にかければ、消費生活センターや消費生活相談窓口などを教えてくれます。警察に通報するべきかどうか迷ったときは、#9110の「警察相談ダイヤル」でもいい。
情報提供だけでもいいし、相談レベルで全然OKです。もし、詐欺の被害に遭っていたら、そこからさらに別の電話がかかってくる可能性もあります。あまり認知度は高くないのですが、「188」と「#9110」は覚えておいていただきたい番号です。
多田文明
ジャーナリスト(評論家)・ルポライター
1965年、北海道生まれ。2001年に雑誌『ダ・カーポ』(マガジンハウス)にて、悪質商法に誘われたらついていく「誘われてフラフラ」という連載を担当。数々の勧誘の現場を取材・経験し、詐欺や悪質商法、マインドコントロールの手法に精通。テレビや雑誌、講演や講座などを通じ、詐欺や悪質業者の勧誘実態やだまされないための対策について広めている。
著書に『キャッチセールス潜入ルポ~ついていったらこうなった』(彩図社)、『だまされた! :「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』(方丈社)、『サギ師が使う 人の心を操る「ものの言い方」』 (イースト新書Q)、『ワルに学ぶ 黒すぎる交渉術』(プレジデント社)、など