はじめに

東日本大震災時の失政の根因

つまり、大災害が経済成長率や日経平均株価などにどう影響するかは、災害の規模や被害の大きさというよりも、復興対応を含め、政府と中央銀行が妥当な総需要安定化政策を行うか次第です。

一例として、物的・人的被害が極めて大きかった2011年3月の東日本大震災を振り返りましょう。2011年以降の8年間で、住宅・インフラ再建や被災者救済などに約18兆円の復興関連予算が使われました。一方、当時の民主党政権は復興財源確保という名目で、大規模な復興増税を実現しました。

当時の日本経済は深刻なデフレと低成長という相当な重病で、失業率も現在よりかなり高い状況でした。復興増税導入で長期にわたり税負担が高まり、経済成長の牽引役となる個人消費を抑制する政策が同時に行われました。そして、復興増税とセットで復興予算が組まれたため、政府による投資・消費拡大はスムーズに進みませんでした。

さらに、大震災後の混乱で製造業の供給網が機能不全となり、金融緩和の不徹底による超円高、そして電力供給不足も加わり、多くの製造業の国際競争力が低下しました。また、欧州で政策対応の失敗で債務危機が発生して経済が失速し、世界経済が減速したことも下押しとなり、東日本大震災後の翌2012年に日本経済は景気後退に陥りました。

仮の話ですが、復興増税を行わず、国債発行拡大と日銀の金融緩和強化という、教科書通りの経済安定化政策をしっかり行っていれば、2012年の日本経済の景気後退は免れた、と筆者は考えています。東日本大震災の経緯は、大規模な災害とそれへの政府の対応が経済に及ぼす影響を示す典型例です。

台風19号は政策転換のきっかけになる?

その後、2012年までの当時の民主党政権の経済失政を教訓とした安倍政権は、2013年から日銀の執行部人事に際して2%インフレ目標を導入し、世界標準の金融政策が始まる「政策のレジームチェンジ」を果たしたました。

これをきっかけに、デフレが和らぎ、日本経済は緩やかながらも復調したことを起因に、その後の国政選挙で5連勝を果たすなど、安倍政権は大きな政治リソースを得ました。

今回の台風19号の被害で明らかになったことは、地方を中心に堤防・ダムなどインフラが未整備、あるいは老朽化していたことが人的被害を拡大させた原因になった点です。

現在の日銀の金融緩和によって10年国債金利がゼロ近傍で取引される中で、国債発行を増やしてインフラ投資の財源を調達することは、中長期的に必要な防災インフラを極めて低コストで整備できることを意味します。

より重要な点は、政府が拡張財政に転じて国債発行を増やせば、現行の政策枠組みで日銀による国債購入金額が増えて、金融緩和効果が強まる経路です。2%インフレ実現が遠い状況で、筆者が妥当と考える拡張的な財政・金融政策のポリシーミックスが実現すれば、2020年にかけて日本経済や日本株市場にも期待できるでしょう。

今回の台風19号の到来を受けて、安倍政権が国債発行拡大を伴う財政政策が拡張方向に転じるきっかけになるでしょうか。ただ筆者は、こうした政策対応が早期に実現する可能性は低く、それは早くても2020年半ば以降になると慎重に考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>