はじめに

遺された財産はどこにあるのか?

今回一番大変な作業となったのが、相続財産の調査です。プラス財産とマイナス財産(借金・保証債務、未払金など)を調べることになります。

正明さんは働き盛りの一人暮らしでした。預貯金等の財産がどこに預けてあるのかを知っている人は、一人もいません。

もちろん、お住まいだった家の中に通帳があれば、あるいは金融機関から郵便物が届いていれば、取引があったことがわかります。また、ティッシュやタオルなどの粗品を見つけることができたら、それも取引していた形跡になる可能性があります。こうした1つ1つを確認していく作業が続きます。

金融機関以外にも、クレジットカードや保険証券、各種契約等がないかを確認します。最近では、ネット銀行やネット証券等もあり、目に見えない場合も多く、探すのはかなり困難です。財産を見つけることができなかった場合、手続きを行うこともできなくなります。

海外に居住する相続人が注意すべきこと

今回調査した結果、正明さんに遺言書はなく、相続人は武さん1人でした。預貯金を預けていた金融機関も大体わかりました。この作業が完了してはじめて、相続の手続きのために金融機関等出向くことになります。

そこで必ず必要になってくるのが、印鑑登録証明書です。しかし、武さんはベトナムにお住まいで、海外に居住地を移しているので、日本での住民登録はありません。住民登録がないと印鑑登録ができませんので、印鑑登録証明書も取得できないということになります。

この場合、在留証明やサイン証明(※)を取得してもらい、金融機関等で手続きすることになりますが、金融機関によって必要書類が異なることがあります。万が一、書類に不足がある場合、海外とやり取りを行うこととなり、手続きに時間と労力がかかります。

今回、その旨をお話しさせていただいたところ、相続手続きが完了するまでの間、武さんの住所を日本に移すことが可能であったため、まず武さんに住民登録をしていただきました。その後、印鑑登録をして印鑑登録証明書を取得。これにより相続手続をスムーズに行うことができました。

ただ、日本で住民登録をするとその間、武さんは各種税金を納める必要がでてきます。また、海外に居住されている方によっては、ビザの関係で日本に住所を移すことが困難な方もいらっしゃるでしょう。

※サイン証明とは、日本に住民登録をせずに海外に在留している方に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして、日本での手続きのために発給されるもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。

遺された人のことを考えるなら、遺言書の作成を

今回、ここに挙げた手続きはほんの一部で、まだまだたくさんのことを行う必要があります。

不動産がある場合には、相続の手続きを行った後、売却が必要になる可能性がありますし、残しておく場合は固定資産税の支払いをどのようにするかという問題もあります。マイナス財産が多い場合には、相続放棄を検討しなくてはいけないかもしれません。兄弟姉妹が他にもいれば、その全員で遺産分割協議を行うことになるでしょう。相続手続が無事に終わっても、相続税がかかる場合には申告をする必要があります。

遺言は、「争うのを避けるために作成する」というイメージを持っている方も多いですが、それだけではなく、相続の手続きをスムーズに行うためにも効果的なものです。

もし遺言があれば、今回の場合は手続きに要する時間と労力を大幅に減らすことができたと思います。そして、遺言に財産の詳細(銀行名・支店名・口座番号等)を記載することで、遺された方が何がどこにあるのかを把握することができたでしょう。

今回の相続人のように、海外に居住している方も増えてきておりますし、外国籍の方が日本に居住し日本で財産を持つことや、外国籍の方との結婚も増えてきているように感じます。このような場合、相続がより複雑になる可能性があります。

ご自身の相続人にあたる方が、海外に居住していたり外国籍の場合でも、相続手続で苦労したり問題になることのないように、一度専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

<文:行政書士 細谷洋貴>

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