はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。

お金の使い方が下手すぎるのが悩みです。現在はひとり暮らしで正社員として勤めています。人並みの収入はあると思うのですが、毎月赤字寸前の生活を送っています。旅行もお酒も大好きで、趣味のサーフィンにも結構なお金がかかっています。友達付き合いも大事にしたいので、最低でも週1度、多いときはほぼ毎日飲み歩いています。

家賃も8万円と、自分が住んでいる地方都市の水準からすると平均より高いです。昔はもっと安いところに住んでいたのですが、環境に不満を持って、なんとなく家に寄りつかなくなり、逆にお金がかかっていました。これではダメだと節約を始めて、最初の数ヶ月はお昼はパン、飲み会は断る、といい感じに節約できていたのですが、長くは続かず、反動で新しい車を買ってしまいました。やりくりできない自分が嫌になります。

この「FP相談」で質問するような方たちは、きちんと将来について考えたうえで現在の資産状況を把握し、堅実に運用をされている方が多いように思います。そこまではいかなくても、せめて給料日を待ちわびるような今の状況からは変わっていきたいと思っています。始めの一歩として、どのようなことから始めればよいのか、またどのような心構えで挑めばいいのか、アドバイスをいただけないでしょうか。

収入:年収400万円程度 支出:年間400万円程度
いつもあるだけ使っています。保険などには入っておらず、貯蓄も特にありません。
(24歳、男性、独身)


20代のお金の使い方について

野瀬: 私は過去に自分の20代のお金の使い方について書籍を執筆したこともありますが、今でもそのときの考え方から大きくは変わっていません。しかし、10年以上も経てば細かい点ではいろいろと考え方も変わりますので、その点も踏まえてアドバイスしたいと思います。

ご質問者の方は現在、「400万円稼いで400万円使う」とありますので、手取り400万円の給与があることになります。これは同世代から考えるとかなりよいお給料です。

そして、それを使い切ってしまうのは、常識で考えると「使い過ぎ」ということになります。

ただ、お金は「ただ貯めればよい」といものではなく、使わないと意味を持たないものです。一概に使うことが悪いとなるのではなく、大切なのはその「使い道」です。

私が常々このコラムで主張してるように、自分の胸に手を当てて、その使い道が「本当に心の底から好きなもの」であればじゃんじゃんとお金を使うべきだし、逆に「本当は好きでもないのに、周りに合わせて買っているもの」や「周囲の目を気にして買っているもの」であれば、即座にその悪い癖をやめるべきです。

特に20代というのは、お金と体力と時間が一番バランスよく手に入る時期だともいえます。30代から40代は収入はある程度あっても、家庭を持つ人が多いので支出も多く、かつ時間がありません。

そして50代から60代になると、お金も時間もある程度余裕がでますが、決定的に体力がありません。

これを5段階評価で表現すると、20代は「お金3、時間5、体力5」(収入はそれほど多くないが家族もいないため、自由になるお金はある程度多い)。

30代から50代前半は「お金2、時間2、体力3」(収入は多いものの、養育費などで支出も多いため、自由になるお金は少ない)。

50代前半から60代は「お金4、時間4、体力1」(子供が独立してお金と時間には余裕ができるも、いかんせん体力がない)。

このようなイメージでしょうか。この数値を見ながら、お金の使い方について再考するとよいでしょう。

となると、20代のお金の考え方としてまずは(1)今買っているものが本当に好きか、(2)「時間」と「体力」がある今だからこそできるものか、という2点をよく考えて、見直すとよいでしょう。

それは本当に好きなものですか?

具体的なステップですが、ご質問者の場合、「旅行」や「お酒」、そして「サーフィン」が本当に好きだとおうかがいしていますが、せめてその趣味を3つから2つに絞ってみるのはどうでしょうか。

人間、「本当に好きなもの」は3つも4つもないのが通常です。加えて「旅行」と「サーフィン」は体力がある20代のほうがいいかもしれませんが、「お酒」は歳をとってからも楽しむことができます。

また、「お酒」を飲み過ぎて体調を壊せば、大好きな「旅行」や「サーフィン」もできなくなります。その点も考え、例えばこの好きなものを「旅行」と「サーフィン」に絞ってみてはいかがでしょうか?

また、家賃に関しては、8万円の家にすることで、外に遊びに行く機会が減ったようですし、手取り400万円のお給料から考えると、8万円の家賃はそれほど高いとは思いません。

心の底から気に入っている家なのであれば、今のままでもよいでしょう。

そして、突発的に車を買ってしまい、ガツンとお金が減ってしまったとのことです。こういった突発的な出費で、「心の底から好きなもの」というケースはまずありません。このあたりは改善の余地があると思います。

突発的な支出を防ぐ方法

こういった突発的な高額支出を防ぐためには、以下のような対策が考えられます。

(1)予算制を導入し、月初にATMで必要なぶんだけをおろし、1カ月その範囲で生活する。銀行のカードは家においておく。

(2)クレジットカードの使用枠を落とし、一定の枠以上を使えないようにしてしまう。

(3)ものを物理的に買えない状態にする(車:駐車場がない物件に住む、駐車場を解約。衣類:クローゼットが小さい物件に住む。家具:リビングが狭い物件に住む)

(4)家計簿ソフトを利用する。クレジットカード履歴をタイムリーに見られるようにして、毎月眺めることで反省。具体的には、ウェブのお気に入りに入れておいて、2日から3日に1回程度はパソコンを立ち上げた瞬間に、家計簿ソフトを見る習慣を作る。

これらの対策により、まずは貯金100万円を目指してください。ご質問者の方の場合、投資や運用について考えるのはまだ先になります。所得から考えると、年50万円の貯金を目標にして、2年で100万円を目指すとよいでしょう。

千里の道も一歩からですが、明確な数値目標を設定すれば、ご質問者の方の所得から考えても、それほど難しい水準ではないはずです。

あとは、家計簿ソフトで貯金残高を見て、ニヤニヤする癖をつけたら完璧です。貯金の数字が増えることに楽しみを見いだせるようになれば、とりあえず大丈夫かと思います。

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