はじめに
アジア新興国では、米中貿易戦争が長期化している中で、さまざまな問題が顕在化しています。その問題の1つがサプライチェーンの崩壊です。
これまでサプライチェーンには多くのアジア新興国が組み込まれていたため、各国とも多かれ少なかれ影響を受けています。その影響が大きい国の1つが、タイです。
同国では、今年3月に民政移管に向けた総選挙が実施されましたが、選挙後も目立った変化がみられません。改善のみられない政治情勢に加えて、経済のほうでも成長減速、不安定な通貨など、多くの問題を抱えています。
そこで今回は、タイの現状と同国が抱えている問題点などに関して、確認してみたいと思います。
消費意欲は8ヵ月連続で低下
まず、タイ経済にとって大きな問題が国内経済の成長鈍化です。11月18日に発表された7~9月期の同国のGDP(国内総生産)成長率は前年比+2.4%と、4~6月期の+2.3%とほぼ同水準でした。
特に成長の足を引っ張っているのは、輸出の部分です。もともと同国経済は輸出の比重が高い傾向にありますが、足元のサプライチェーン崩壊によってタイの輸出は大きく押し下げられています。
主力産業である自動車の月次の輸出を見ると、直近5ヵ月連続で前年割れとなりました。自動車や電子部品など、タイの主力輸出品は明らかに減速しているといえます。
主力産業が不振に陥る中で、直近は国民の消費者信頼感も低下してきています。毎月発表されているタイの消費者信頼感指数を見ると、10月は57.9と8ヵ月連続の低下で、2014年4月以来、5年半ぶりの低水準となりました。長引く景気低迷が、国民の消費意欲にまで響いているといえるでしょう。
バーツ高を誘引した3つの要因
このように景況感が悪化する中で、通貨バーツ高が進行しています。直近のバーツは約6年ぶりのバーツ高となりました。
バーツ高の1つ目の要因が、大幅な経常黒字です。タイの経常収支黒字は対名目GDP比で約6%と、アジア新興国の中で最も高い水準となりました。
米中貿易戦争の長期化によって輸出は減少傾向であるものの、中間財の輸入も減少しているため、結果的には経常収支の大幅黒字につながっています。
2つ目の要因として挙げられるのが、消費者物価指数の低迷です。もともとタイの消費者物価指数は低水準で推移していますが、10月の消費者物価指数は前年同月比+0.11%と、3ヵ月連続の鈍化となっています。
タイ国内では、不当な値上げによって消費者に不利益を及ぼす事態を懸念して、政府は価格統制を厳格化しており、低インフレの一因になっているといえます。