はじめに

2度の利下げが不発に終わった事情

3つ目の要因として挙げられるのが、タイの金融政策です。

2019年半ば辺りまで、タイ政府は景気浮揚よりも家計債務のコントロールを重視して、引き締め気味の金融政策を採ってきました。しかし、その後は方針を転換。8月、11月と2度の利下げを実施しました。

タイ政策金利

この利下げによって、タイの政策金利は同国史上最低の1.25%となりました。ただ、他の新興国も利下げしている状況の中で、思惑通りのバーツ高抑制にはつながっていません。

現在のタイの政策金利水準であれば、まだ追加の利下げを行う余地はあります。今後、一段とバーツ高が進む局面になれば、タイ当局は利下げよりも為替介入や資本規制の変更などによって対応すると予想されます。

先行きを左右する2つの動き

それでは、今後のタイ経済の先行きを考えるうえで、どのような点が重要になってくるのでしょうか。

まず1つ目が、政局の動向です。タイでは、以前から「タクシン派」と「反タクシン派」との争いが続いていますが、今年3月に実施された総選挙では“第3の勢力”として反軍政を唱えた「新未来党」が大きく勢力を伸ばしました。

その後、野党第一党である「タイ貢献党」と野党連合を結成し、プラユット政権に対抗する姿勢をみせています。タイでは、選挙や政権がらみの争いで政治が混乱する、というケースが多く、今後も安定しない政局はタイにとっての不透明要因になりうると思われます。

そしてもう1つが、デジタル化・高付加価値化推進に向けた動きです。タイ国内ではここ数年、少子高齢化や人件費上昇が進行しており、国際競争力は明らかに減退しています。そのため、直近は生産性の向上が急務となっており、「タイランド4.0」と名付けた産業高度化政策で、ロボット産業の育成などハイテク産業の育成を目指しています。

ロボット産業の育成、拡充に加えて、ロボットを導入する企業に対して補助金を支給するなど、積極的に後押ししています。タイが国を挙げて取り組んでいる国家事業といえます。高齢化が進んで国際競争力の低下が顕著となってタイの優位性が失われつつある中で、今後の政府の取り組みが注目されます。

<文:市場情報部 アジア情報課長 明松真一郎>

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