はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、昨年35年の住宅ローンを組み、2人の子ども育てる42歳の共働き主婦。現在は第2子の育休中ですが、育児に専念するため復職せずに仕事を辞めたいといいますが……。FPの氏家祥美氏がお答えします。
<相談者プロフィール>
・女性、42歳、既婚(夫:45歳)
・子ども2人:7歳、1歳
・職業:会社員(育休中)
・居住形態:持ち家(戸建て)
・毎月の世帯の手取り金額:33万円
(妻:復職時の額面年収300万円)
・年間の手取りボーナス額:80万円
・毎月の世帯の支出目安:30万円
【支出の内訳】
・住居費:8.5万円
・食費:7万円
・水道光熱費:1.5万円
・教育費:2万円
・生命保険料:1.1万円
(ガン保険:3500円、掛け捨て死亡保障:7500円)
・学資保険:2.2万円
・通信費:1.4万円
・車両費:0.5万円(ガソリン)
・お小遣い:4.3万円
(夫:3.3万円、妻1万円)
・その他:1.5万円
<ボーナスからの支出>
固定資産税、自動車税、車検、旅行等:30万円
【資産状況】
・毎月の貯蓄額:3万円
・ボーナスからの年間貯蓄額:50万円
・現在の貯蓄総額:300万円
・現在の投資総額:なし
・現在の負債総額:約3000万円(住宅ローン、残期間34年、変動金利)
氏家: こんにちは。ファイナンシャルプランナーの氏家祥美です。今回は、現在第2子の育児休業中の方からのご相談です。可能であれば復職をしないで育児に専念したいということですが、家計的に可能かどうかを診断させていただきます。
7歳と1歳のお子さんがいる共働き家計
今後の状況をわかりやすくするために、ご相談者さんのライフプラン表を作成してみました。ご相談者さんには、現在7歳と1歳になるお子さんがいます。ライフプラン表では、それぞれのお子さんが高校・大学の時期を教育費のかかる時期として黄色にしてあります。現在45歳のご主人、42歳の奥さまですが、お子さん2人が無事に社会人になるのは、ご主人が67歳、奥さまが64歳の時だと思われます。
ご主人が65歳まで現役で働くとしても、その時まだお子さんは大学生で教育費がかかります。年金生活で大学の学費を出すのはとても難しいので、教育費は早い段階で貯めていく必要があるでしょう。
夫が79歳になるまで続く住宅ローン
続いて住宅ローンを見ていきましょう。昨年マイホームを取得したということで、住宅ローンの返済があと34年残っています。ライフプラン表では、住宅ローンの残年数を緑色で示しています。現在45歳のご主人が住宅ローンを完済できるのは、79歳の時ということがわかります。
人生100年時代とはいいますが、79歳までの住宅ローンは長すぎます。金利負担のことや老後のキャッシュフローのことを考えると、少しでも早くローンを完済できるように、早め早めに繰り上げ返済をしていきたいところです。
大きな無駄が見当たらない「バランスのいい家計」
現在の家計の状況ですが、手取り月収が33万円に対して、毎月の支出が30万円です。このうち、学資保険2.2万円で将来の教育費を貯めているほか、毎月貯蓄が3万円できている計算です。
支出の中身をみても、住宅ローン、保険料、通信費などの固定費も目立って大きなものはなく、食費やその他の雑費もわりと妥当な金額でおさえられている、バランスのいい家計だと思います。
続いてボーナスを見ていきます。年間80万円のボーナスがありますが、固定資産税、自動車税、車検などの決まった支出に、旅行代金を含めて30万円の支出があります。数字上は50万円の貯蓄ができそうです。
以上より、ご主人だけの収入で計算しても【月々3万円×12ヵ月=36万円】【ボーナスから50万円】、合計で86万円の貯蓄が期待できます。
貯蓄は予定通りにはいかない?暮らしの変化を想定して
ただし、実際のところは、そんなにかんたんに貯蓄は増えていかないでしょう。なぜなら、お子さんが生まれると、七五三などのイベントや、入園準備、入学準備など、数々のイベントごとがあり、そのたびにまとまった支出がでていきます。
毎年の暮らしの中では、家具家電の購入や冠婚葬祭などの想定外の支出がしょっちゅうありますね。現在車をお持ちなので、少なくとも10年に1回程度は、自動車の買い替え費用も必要です。住宅が古くなればメンテナンスも必要になります。
また、お子さんが7歳と1歳(育児休業中)というのは、実はもっともお子さんにお金がかからないときです。下のお子さんがもう少し大きくなれば、レジャーや外食の頻度も増えるでしょう。お子さんが中高生になると食べる量も増えますし、お小遣いも必要になります。塾などの学習費もかかってくるでしょう。
10年目あたりから苦しくなり、21年目から「家計の氷河期」に
ライフプラン表をみると、いまから10年目、ご主人が54歳の時に第1子が高校に入り、ここから13年間教育費のピークが続きます。
会社にもよりますが、55歳前後になると役職定年などで給与がガクンと減少したり、減らないまでも収入が伸び悩むケースが多くなります。さらに60歳以降は、雇用継続できても給与がさらに2~3割減少する会社が現状では多く見受けられます。教育費がかかるタイミングで、給与の減少が始まるというのは、とても不安な状況ですね。
続いて、21年目をご覧ください。この年はご主人が65歳となり、年金生活が始まりますが、下のお子さんはまだ大学生で学費があと2年間かかります。この2年間は特につらい時期となるでしょう。その後、お子さんが就職すると教育費はひと段落つきますが、住宅ローンの返済は79歳まで続きます。住宅ローン返済が続く間は、預貯金がハイペースで失われていくことが予想されます。
将来の負担を減らすために、ほんとうは今から10年間、急ピッチで繰り上げ返済や将来の教育費を貯めていきたいところですが、暮らしの規模がだんだん大きくなっていくと、そこまでハイペースでは貯められないと考えるのが現実的です。
家計の氷河期は「妻の育休復帰」で解消できる?
そんな心配な状況がやってくる将来の家計ですが、家族を救える方法が一つだけあります。それは、奥さまが育児休業明けに職場復帰をすることです。
「職場復帰をしないで、このまま家で子育てをしたい」というご希望があるのに、申し訳ありません。でも、家計の現状とライフプラン表を見る限り、辞めている場合ではないのです。
ご相談者さんの額面年収は300万円ということでしたね。手取り月収にすると、20万円前後になるでしょうか。育休明けに職場復帰をした場合、しばらくは保育料もかかりますし、そのほかさまざまな共働きコストがかかると思います。でも、がんばって月に10万円を将来のための貯蓄や繰り上げ返済にまわすことができたら、将来はガラリと変えられます。
月々10万円を1年間続けると年間で120万円となり、これを来年から60歳になるまで18年間続けると、2160万円になります。わかりやすく、ここでは金利などを無視して考えますが、2160万円あれば、お子さんの教育費500万円と、住宅ローンの返済16年分(8.5万円×12×16年=1632万円)が用意できます。
16年ローンを短縮できると、ライフプラン表で赤く示した家計の氷河期がなくなります。かつ、第1子の大学学費は学資保険で、第2子の大学学費は貯蓄で用意ができているので、ライフプラン表の黄色で示した教育費についても、問題が解決できることになります。それくらい、これからの奥さまの働きが家族の未来にとって重要ということです。
復職後2~3年支出が上回っても、その後取り戻せる
育休明けはしばらく、時間的にも経済的にも精神的にも、大変な時期が続くと思います。そこへの不安感が今回のご相談のきっかけになっているのでしょう。
しかし、そこで子育てに専念する生活に入ってしまうと、ブランクを経たのちに、同じレベルの仕事に就くのはなかなか難しくなります。パートでの復職では月10万円の貯蓄は難しいので、ぜひ頑張って続けてほしいと思います。
ひとりで家事や子育てを抱えず、夫婦でぜひ共有してください。二人きりでは難しい場合には、家計からベビーシッターやホームヘルパーの費用を出してでも、ほっと息抜きできる時間を確保しましょう。もし2~3年、そうした支出の方が上回ったとしても、下のお子さんが3歳になって貯蓄のペースを早めれば取り戻せます。
かならず「続けてよかった」と思える日が来ますから、なんとか乗り切りましょう。
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