「ペーパーレス化」というと「随分昔から聞いてきた言葉だ」と思う方も少なくないでしょう。1970年代にマウスを使って操作する初めてのPC、米ゼロックス「アルト(Alto)」の登場の辺りから、世界的に言われるようになったようです。

アルトを使えば、別の場所の人と共同で資料が作成できたり、印刷をしなくても画面で情報の共有ができるようになりました。将来はオフィスで紙が使われなくなり電子化される、などとも言われていました。

しかし、実際には、環境整備に多くの費用がかかるといった問題だけでなく、画面が今とは格段に劣っていて使いにくいことや、持ち運び面などの技術的な問題、そして特に日本では文書の決裁は紙に印鑑を押すことが一般的であることなど、多くのハードルがあり、電子化は進みませんでした。

一方、2000年に入ってからのペーパーレス化といえば、むしろ私たちの身近なところで感じる場面が多くなったかもしれません。交通機関を利用する時は紙の切符はめったに使わなくなり、書籍や新聞を電子版にする人も多くなりました。インターネットや電子決済が普及する中で、環境問題への配慮からゴミを減らそうという考えも広がりました。

企業側のペーパーレス化も、ここ10年の間で緩やかに進んできたようです。そこで今回は、企業のペーパーレス化と株価の間に何らかの関係性があるのかについて、考えてみます。


企業のペーパーレス化が急激に広がったワケ

2000年以降の法制面での後押しでいえば、たとえば2005年の電子帳簿保存法の改正で、国税関係書類のスキャナー保存制度が導入されました。更に2016の改正ではスキャナー保存制度の要件が緩和され、スマートフォンのカメラでスキャンしたものも認められるようになり経理・会計業界で大きな話題になりました。

身近な例では、仕事でタクシーを使った場合の領収書が挙げられます。スマホでスキャンして会社の経費申請フォーマットに入力することで、外出先からでも申請ができるようになりました。

このような申請や帳簿だけの話にとどまらず、近年はオフィスでのペーパーレス化が進んでいます。会議で、紙の資料を配らず、参加者はファイルをPC上で閲覧することが増えています。

これは、紙を減らすという理由に、さらに重要な点が加わったことが背景にあります。紙の印刷やその保存場所の確保などのコスト削減という視点です。加えて、近年は働き方改革の中で、会議前の資料の“準備の準備”などの手間を減らすことも重要になりました。

紙使用量を増やしたほうが株価は好調?

ここで話を整理しましょう。ペーパーレスを進める企業は、環境問題への意識が高いだけではありません。業績改善につながるコスト削減に対する意識が高く、そして従業員の負担を減らす効率化の努力をしている企業になります。

であれば、株式市場でも評価されると考えられます。そこで実際に分析してみました。

東証1部で紙消費量を公表している企業を対象に、毎年1回、8月末時点で取得できる紙消費量をチェックします。そして、3年前と比べて「増えた」「減らした」で分類し、その後1年間の株式の平均収益率を見ました。表で示した収益率は、2011年以降でさらに平均しています。

【東証1部上場企業のエネルギー消費の増減とその後の平均株式収益率】

紙使用量が増えた 紙使用量を減らした
1年後 16.6% 16.3%
3年後 69.0% 61.0%

(注)2011年以降、8月末での東証1部企業の紙消費量が3年前と比べて「増えた」「減らした」で分類し、その翌月から1年間と3年間の株式収益率の平均をさらに時系列で直近まで平均 (出所)Bloombergのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

実は、分析結果からは仮説とまったく反対の結果で、紙使用量が「増えた」がその1年後の株価パフォーマンスが上回っています。また、その3年後でも同じ結果で、「増えた」が上回りました。紙使用を増やした会社のほうが株価パフォーマンスは良くなってしまいました。