はじめに
堅調相場に潜む下振れリスク
――2020年に警戒すべきリスクには、どんなものがあるでしょうか。
このメインシナリオから、上にも下にもブレるリスクは当然あります。景気拡大により企業の設備投資の回復が予想以上に進んで世界の経済成長率が3%を超えてくることがあれば、日本企業の収益は大幅増益が期待できます。このシナリオが実現すれば、日経平均株価は2万7,000円台も狙えるでしょう。
一方、国内の景気が本格的な後退局面に入ることがあれば、大きな下振れリスクとなります。過去の例を見る限り、五輪開催国の大会後の経済成長率は減速するという経験則もあります。
特に建設需要の落ち込みが心配されていますが、実際には建設以外にも、小売り分野での訪日客対応やシステム投資など、さまざまな領域で五輪を意識した投資が行われてきただけに、反動減が心配されます。
政府は東京五輪後の経済活力維持などを目的とした26兆円規模の経済対策を閣議決定しているので下支えは期待できますが、それでも現状維持が精一杯でしょう。
また、2020年は米大統領選が控えます。トランプ再選なら大きな変化はないでしょうが、民主党候補が勝利すれば、規制強化や増税といった株式市場にネガティブな政策に転換するおそれもあります。米中関係もまだ先は見えず、再燃すれば下振れリスクはさらに高まります。この場合、日経平均株価は1万7,000円台をつける可能性もありそうです。
上振れと下振れ、どちらのリスクが大きいかといえば、やはり下振れる可能性のほうが高いと言わざるを得ません。年の終盤から翌年にかけて、こうした下振れリスクはより強く意識されるようになるでしょう。
期待の5G関連はすでに買われ過ぎ水準
――日本株の売買高の過半を占める外国人投資家は、日本の株式市場をどう評価していますか。
「アメリカがくしゃみをすると、日本が風邪をひく」とはよく言われますが、日本株は世界経済、すなわち米国景気に敏感に反応します。2019年までは世界経済の減速懸念を先取りする形で外国人投資家の売り越しが続いてきましたが、下げ止まったと判断されれば買い戻しも真っ先に行われるという特徴もあります。このため、短期的には日本株を見直す動きはみられます。
しかし、これも売った分を買い戻すレベルに過ぎず、積極的に買っていく材料には乏しい。企業業績は海外より見劣りしますし、マイナス金利政策を採る日銀がさらなる金融緩和を発動する可能性もほぼ見込めないからです。
唯一評価されていたのが近年のコーポレートガバナンスの改善でしたが、これも2020年春の施行が予定される改正外為法が冷や水を浴びせるおそれがあります。
これは安全保障上重要な日本企業への出資規制を強化するのが狙いで、「モノ言う株主」であるアクティビストの活動が制限されるおそれがあります。具体的な中身については詳細を定める政省令を待つ必要がありますが、外国人投資家の投資意欲を削ぐ内容になるようなら、株価への悪影響も考えられます。
――2020年相場で、注目している業種はありますか。
まずは、設備投資関連です。2019年までは米中貿易摩擦や自動車産業の落ち込みなどで手控えられていた設備投資が、世界的に回復してくることが見込まれるからです。ただ、機械株の優良銘柄はすでに買われているので、出遅れ気味の建設機械や工作機械などが狙い目とみています。
第2に、建設です。東京五輪後の需要減退が意識されて株価は長く低迷してきましたが、現実には政府の経済対策の効果で市場が懸念しているほどには悪化しないとみています。割安になり過ぎている株価が修正される余地は十分ありそうです。
第3に、ITサービスです。ここ数年は構造的な労働力不足や働き方改革といった追い風に加え、キャッシュレス決済やクラウド化などのイノベーションも進んでいます。企業のシステム更新需要も根強く、IT投資需要は底堅く推移しています。こうしたサービスを提供する企業は業績も好調で、株も買われていますが、引き続き有望と考えています。
一方で、あまり期待できない業種もあります。1つは電気機器を中心としたハイテク領域です。5Gへの期待が先行し、すでに株価は割高な水準まで買われています。
年末に発表された2020年の税制改正大綱で5G導入促進税制が盛り込まれたことで再評価する動きもありますが、これも相当織り込まれています。米中関係が悪化すると悪影響を受けやすいというリスクも無視できません。
また、小売りなどの消費関連も警戒が必要です。消費増税後の落ち込みがいつまで続くかが不透明な中で、労働力不足でコストは上昇しています。価格転嫁がうまくできないと利益が圧迫されてしまいます。