はじめに

つながりを作ることは、本当に最善か?

――そもそも、なぜ、そこまでして「つながり」をつくりたいのですか?通貨だけれども、むしろ、「お金ではできないこと」をしてあげたり、してもらう。そのための地域通貨だというのは、わかりましたが……。

結局、人と人のつながり、関係人口がその地域の経済を支える重要な資産であり、地域資本・元手になるからです。お金ではなくて、その元手をまず大きくするということが目的で、まちのコインはそのためのツールということです。

――お金は「つながりを省力化するためにこそある」という考え方もあります。何かをしてもらうために、人間関係を維持する面倒くささやしがらみをお金が代替してくれたおかげで、解放された部分もある。つながりをつくることが最善とは言えないのでは?人間関係の省略に使われるお金

確かに、試行錯誤の段階で話しをした地域によっては「この町はつながりだけはあるから、つながりづくりは必要ない」と言われたことがあります。でも、僕らがめざすつながりづくりというのは、「実際に、使えるつながりづくり」。つながりを地域の資本(元手)として活用していくことに意味があると思うのです。

――単に「つながりがあるかないか」ではなく、「有効なつながりがあるか」を問題にしていると?

そうですね。単なる顔見知りやしがらみにならない、地域の人とのちょうどいいつながりをつくるのは簡単ではないので、課題ではあります。でも、心地よいつながりのバランスは必ずある。そして多分、それは熱狂的なものではない。ジワジワとした温度感で広がる、緩やかな関係づくりがあるのではないかと考えています。

――まちのコインのレベルや温度感なら、ちょうどいい?
可能性は感じています。

3鎌倉にある面白法人カヤックの会議室にて

――しかし、これまでは地域通貨というと、「お金の代わり」にして地域で囲い込む。そして、内需拡大を目指すというものがほとんどでした。

むしろ、「お金の代わり」にできるだけならないよう、すごく注意しています。お金=日本円の代替品をつくっても、結局、円のほうが広く使われているので便利ですよね。円の代わりだと、円より利用が広がりにくい。

だいたい、キャッシュレスのように円と換金できたり、円の代替品のように見られた途端、損得勘定がはたらいてしまう。例えば、「これを手伝うとおよそ300円か」と、価値を円で換算してしまうでしょう。そうすると、やはり、広く使われている円を稼ぐほうが得なのでは?ということになる。だから、できるだけ、日本円と切り離そうと決めました。

――なるほど。つまり、日本円と無駄に競合しないところで地域通貨を回す。このほうが、失敗は避けられそうです。

やっぱり、日本円のパワーはすごい。ほぼ魔力です。日本円の引き起こす損得勘定はあらゆる行動や感情の動機付けになっています。だから、とにかく損得勘定から地域通貨を切り離す。切り離しても、しっかり循環できる仕組みを考える。ここは、新しいアイデアが必要なところですが、地域コミュニティーの方々と一緒に、初期段階からの唯一のこだわりといってもいいくらい、最大限、考えていることです。

ーー確かに、すぐ損得を考えますね。例えば、成功していると言われる地域通貨も金融機関の口座に紐づけられていたりする。つまり、そこで最終的にお金になってプールされている。いくら志が高い事業でも「結局、一番得しているのは、地域住民でも店でもなく金融機関でしょ?」と、私などは考えてしまいます。

やはり、円の代替品にした瞬間にそうなってしまうんですね。じゃあ、損得勘定のはたらかないところで地域通貨を回すには、どうすればいいか?というと、実は、使い道を増やすとそれができる。使い道が増えれば、その分、使う動機づけも増えるからです。だから、お金が担えないニーズを拾った。どちらにしろ、僕らがこだわるのは、あくまでも「コミュニティー通貨を使うことで起こること」です。コミュニティー通貨を使って、結局、どうしたいのか。日本円でできることなら、別に日本円でいいわけですから。

3海岸の掃除を手伝いでもクルッポがもらえる。

それから、先ほども言われたように、一般的に地域通貨は地域を閉じて囲いこむ方向で使われがちです。確かに、地域を閉じる方向の内需拡大を目的にするなら、これまで同様、地域ポイントやプレミアム振興券だったり、決済系の地域通貨を決済アプリを通じて、キャッシュレスのツールとして使う方法もありでしょう。

しかし、閉じる方向だと、そこそこ人口の多いところでないとうまく機能しません。また、ペイペイなどあれだけの数のサービスが参入してくると、キャッシュレスの利便性や還元率のために地域通貨を使うという選択は、今後しにくくなってくるのではないでしょうか。

日本の国土の半分以上は1万人以下の中・小規模都市です。地域を閉じることではなく、今後はむしろ地域を開いていく方向で、経済発展やまちづくりを考えていったほうがいいのではないかと考えています 。

[PR]NISAやiDeCoの次は何やる?お金の専門家が教える、今実践すべきマネー対策をご紹介