はじめに
今年はいよいよ東京オリンピック・パラリンピックが開催される年です。この大イベントの影響は、昨年のラグビー・ワールドカップ(W杯)以上に大きなものが期待されます。
ラグビーW杯では、日本代表が10月13日のスコットランド戦で勝利し、史上初の決勝トーナメント進出を決めた日の翌営業日となった10月15日の日経平均株価は、前日比408円34銭も上昇しました。スコットランド戦は39.2%という高い視聴率を記録しており、人々のマインドに少なからぬプラスの影響を与えたと考えられます。
また、大会期間を通じて、多くの訪日外国人客が日本を訪れました。日本政府観光局の推計値では、9~10月の出場国からの訪日外国人客は前年比29.4%増となっています。インバウンド効果も大きかったとみられます。
1月14日に公表された2019年12月分の景気ウォッチャー調査では、「東京オリンピックに向けて消費マインドの高揚と東京オリンピック関連商品の販売効果に期待している(四国:スーパー<店長>)」をはじめとして、前向きなコメントが散見されました。
12月の「景気ウォッチャー調査」先行き判断でオリンピックに言及したウォッチャーは、回答者1,818人中114名。オリンピック関連DIを作成すると、先行き判断DIは景気判断の分岐点の50を上回る53.3になりました。オリンピックが景況感にプラスに働いていることがわかります。
2020年は「オリンピックの崖」を回避できる?
1964年の東京オリンピックの後の景気の動きからの連想で、オリンピック後に景気が落ち込むと考える、いわゆる「オリンピックの崖」への懸念を指摘する向きも多いようです。
前回の東京大会当時、オリンピックは交通インフラやホテル建設などで、東京を大きく変える原動力になりました。10月10日の開会式に合わせるように、首都高速や東海道新幹線の運用が開始されました。しかし、オリンピック開催月の10月が景気の山で、終わると不況が訪れました。
2020年の東京オリンピックには、1964年のようなオリンピックに向けた猛烈な投資の動きは見られないので、関連投資の反動も小さいでしょう。「オリンピックの崖」への懸念はあるものの、政府の経済対策で大きな落ち込みは回避できるとの見方が大勢です。
「ESPフォーキャスト調査」における、フォーキャスター全員の総意を示す「総合景気判断DI」を見ると、2019年10~12月期には「総合景気判断DI」は消費増税の影響などで一時大きく低下するものの、2020年1~3月期には景気判断の分岐点の50を再び上回る水準まで回復し、2020年4~6月期、7~9月期と80以上となっています。
その後オリンピックの反動などが懸念される10~12月期は、11月調査までは50を下回る見込みでしたが、12月調査では50超へと上方修正になりました。12月調査回答日前の12月5日に、政府が国や地方からの財政支出が13.2兆円程度となる「安心と成長の未来を拓く経済対策」を閣議決定したことを反映したと思われます。
経済対策は、民間の支出も加えた事業規模では26兆円程度になります。(1)災害からの復旧・復興と安全・安心の確保、(2)経済の下振れリスクを乗り越えようとする者への重点支援、(3)未来への投資と東京オリンピック・パラリンピック後も見据えた経済活力の維持・向上、が3本の柱であるからです。
「オリンピックの崖」は回避され、緩やかながらも景気回復が続くというのが、エコノミストのコンセンサスです。