はじめに

内面に踏み込みすぎない心がけ

──受けるほうが心がけておきたいことはありますか。

斎藤:内面に踏み込みやすいという事に配慮して、たとえば1回の話題を1つに絞るなど、話しすぎないように心がけておくといいと思います。

──発達障害傾向や、ボーダーラインパーソナリティ障害(※)傾向がある部下と1on1をやる場合はどんな点に気をつければよいでしょうか。

斎藤:発達障害傾向のある人は、優秀な面もありますが、対話は表面的には苦手な人が多いので、やろうとしても全然乗ってこないとか全く噛み合わないといったことが起こるかもしれません。それが続くと上司もネガティブな感情を持ってしまうということはありえますが、それを誤解として理解できるかということが問題ですよね。

一番問題になりやすいのはボーダーラインパーソナリティ障害傾向のある人だと思っています。ボーダー的な人は1on1によって依存関係が深まりやすく、病理が増幅されやすい傾向を持っています。ボーダー的な人にはある種の魅力があって、非常に巧妙に特別感を引き出すテクニックを持っていて、プロでも扱いが難しい。そういう人に見込まれたらちょっと素人では太刀打ちできないですね。たとえば「延長して話を聞いてくれないと死んでやる」と言われたときに適切に断れるかといわれたら、多分素人には無理なんですよ。

(※)ボーダーラインパーソナリティ障害・境界性パーソナリティ障害は,対人関係の不安定性および過敏性,自己像の不安定性,極度の気分変動,ならびに衝動性の広汎なパターンを特徴とする。診断は臨床基準による。治療は精神療法および薬剤による。(「MSD マニュアルプロフェッショナル版」より)

──具体的にどのように接すればいいでしょうか

斎藤:まず、特別扱いしないこと。1on1では時間をきちんと守らせること。これは絶対です。ルール違反をした場合はきちんとペナルティを受けてもらう。逸脱やルール違反を繰り返した場合には、専門家に誘導するというルートが作ってあったほうがいいです。

複数対話によるミーティングのススメ

斎藤:1on1の危険性を防ぐためには複数体制でやるのがいいと思います。2対1、もしくは2対2。2対5でも、もっと多くてもいいと思います。

そもそも、1対1でないと話せないようなことを、上司・部下の関係で聞く・話す必要はあるのでしょうか。そこから考える必要があるかもしれません。

若者の就労支援をしている知人は、1対1に持ち込まなくても、しょっちゅう様子を聞くことが大事だと言っていました。「何かできることない?」と、とにかくマメに聞き、上司はニーズの御用聞きみたいな感じで振舞う。それで相談したいと言われたらしたらいいのであって、一律に1on1を義務化して、ニーズがないところを無理に掘ってもしょうがないのではないでしょうか。

──複数で対話することは、1対1の場合とどう変わってくるのでしょうか。

斎藤:一番のメリットは、人の目があることで転移とハラスメントが起こりにくくなることです。また、複数で話すと視点が複数あるので話題が膨らみやすい。色々な話を引き出すという意味では複数のほうが圧倒的に有利です。私も経験がありますが、1on1だとだんだん話の内容がワンパターンになってくるんですよ。

そもそもチームワークをよくすることが目的ならば、1対1のミーティングよりも、複数で違いを深堀りするような対話をしたほうが、チームはむしろまとまりやすくなると私は思います。

ファシリテーター(進行役)がいて、喋りたい人にテーマを出してもらう。それについてみんなで聞いて、理想的には「リフレクティング」(※)という方法で感想を言い合う。リフレクティングは、話を聞いた人たちが発言者の目の前で、あたかも発言者がいない体で感想を言い合うんです。ちょうど透明な壁があるようなイメージで「誰々さんの意見は面白いよね」「でも意見を拾ってもらえなくて不満が溜まってるかもしれないね」などというような「噂話」をする。ひとしきり話し終えたら、それを聞いていた発言者の感想を尋ねてみる。そうするほうがさまざまな意見が出てきて面白い。会議ではないから合意を目指す必要はなくて、皆の意見はバラバラでいいし、バラバラの状態で終わっていい。
(※)斎藤環『オープンダイアローグがひらく精神医療』(日本評論社)P258・264

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