はじめに

どんなコミュニケーションだといいのか

──それは飲み会ではいけないんですか?

斎藤:お酒はだめです。お酒が入ると同調しすぎてしまうので、むしろコミュニケーションは深まりにくい。アルコールが入って喋ったことが本音とか言われますけど、それは間違いです。危険な事ですから、アルコールは使わない方がいいですね。飲み会はコミュニケーションを深める場というよりも、同調させるための装置になってますよね。「その場のノリ」って、抑圧なんですよ。そういう気持ち悪さを、若者は感じやすいのかもしれない。

──ではSkypeで複数で話し合うのはどうでしょうか?

斎藤:集まれない場合は仕方ないですが、曖昧な問題を扱うときや微妙なやりとりが必要な対話には不向きだと思います。話を聞いて頷いてくれる人の反応が、発言する人を勇気づけることがよくあるじゃないですか。Skypeだと、そういったその場にいる人同士の身体性の反応は非常に拾いづらいし、そこで不安になってしまうので、発言のハードルも高いです。対話をするうえで、対面でその場に一緒にいるということは非常に大切なことなのです。

──まだ、ネットのコミュニケーションだけでは足りないということですね。

斎藤:ネットが普及して、LINEやSlack、Skypeなどがあればコミュニケーションが全部まかなえると思っていたら、そうではなかった。テキスト主体でのコミュニケーションは、身体性が発揮する膨大な情報量を伝達できないので、どうしても貧しくなるんです。その意味では現在のITはまだまだ「ローテク」です。もちろん絵文字とか色々使って多少は身体性加味できるようになりましたが。Facebookもボタンの種類が分けられるようになりましたけども、前は「いいね!」ボタンしかありませんでしたから、アンチも賛同も全部承認の記号になってしまった。質が量に変化してしまうのです。

1on1ブームは、チャットやメールだけという方向に行きすぎちゃったので、結局、顔を合わせることが大事みたいな話に戻ってきているわけですよね。その辺は先祖返り的で面白いなと思います。

やっぱり、ここで戻しておかなきゃまずいなっていう、ある種本能的なものを感じますね。コミュニケーションが減ったから増やそうとするのはいいと思います。でも、1on1はちょっと極端。せめて2on1かね、2on2にして欲しいですね。


流行りの1on1ミーティングは、上司・部下のコミュニケーションを深める一方で、リスクもあります。斎藤さんが指摘したようなリスクを踏まえて研修制度やフィードバックシステムを導入している企業もありますが、そういった体制が整っていない企業は、一度見直してみることが必要かもしれません。

■前半「精神科医に聞く、上司と部下の理想の対話とは?1on1の危険性

斎藤環

斎藤 環(さいとう たまき)

・1961年岩手県生まれ。筑波大学医学研究科博士課程卒業。医学博士。爽風会佐々木病院精神科医長等を経て、現在、筑波大学社会精神保健学研究室教授。専門は思春期精神医学、病跡学。「社会的ひきこもり」の啓発活動を続ける一方、サブカルチャー方面への発言も多い。著書に『文脈病』(青土社)、『「ひきこもり」救出マニュアル』(PHP研究所)など多数。近著に『オープンダイアローグとは何か』(医学書院)、『オープンダイアローグがひらく精神医療』(日本評論社)、『中高年ひきこもり』 (幻冬舎新書)がある。

参考)
本間浩輔(2017)『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』ダイヤモンド社
世古詞一(2017)『シリコンバレー式 最強の育て方 ―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング―』かんき出版
中原淳(2018)『経営学習論 人材育成を科学する』東京大学出版会
斎藤環(2019)『オープンダイアローグがひらく精神医療』日本評論社
斎藤環(著・訳。2015)『オープンダイアローグとは何か』医学書院

Google re:WORK 「「効果的なチームとは何か」を知る」
立教大学経営学部中原淳研究室

著者:斎藤環

オープンダイアローグがひらく精神医療

「開かれた対話」を通じて精神疾患にアプローチする。“一対一の面接”のもつ副作用と制約から精神医療を解放する新たな治療実践。

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