はじめに

閉店する店舗が相次ぎ、苦境に立たされている百貨店業界。そうした中でビジネスモデルを転換して好調をキープしているのが、丸井グループです。

同社の時価総額は約5,500億円(2月12日時点)。大丸や松坂屋を傘下に持つJ.フロント リテイリングの約3,600億円を大きく引き離し、百貨店業界でトップに立っています。

新分野への投資も積極的に進めており、2月12日にはD2C(Direct to Consumer)の新会社設立を発表しました。丸井グループのどのような戦略が奏功しているのか、同日に開かれた発表会からひも解きます。


D2Cスタートアップの出店支援

丸井グループが全額出資する新会社は「D2C&Co.(ディーツーシーアンドカンパニー)」。D2Cとは、メーカーがECサイトなどを通じて消費者に直接販売する仕組みです。社長は丸井グループの加藤浩嗣・最高財務責任者(CFO)が兼任します。

新会社を通じて、D2Cスタートアップ企業への投資や融資のほか、丸井グループのリアル店舗への出店をしていく計画。3年間で約30億円、1ヵ月に1社のペースで投資をしていく予定といいます。

青井浩社長

丸井グループの青井浩社長は、D2Cに注力する理由について、オンラインがオフラインを包含する「アフターデジタル」への時代の変化を挙げ、「これまでオフラインを基盤に成長してきたビジネスが存在意義を問われている」と説明します。

「主力の店舗が根本的な見直しを迫られている。ただ物を買うだけならいつでもどこでもネットで買える今の時代は、ネットのほうが圧倒的に便利。わざわざ店舗に出向くのは、むしろストレスにさえなりつつある」(青井社長)

“物を売るだけ”の店で20〜30年後に存続できるのか考えていたところ、出合ったのがD2Cだといいます。

「売らない店」に変わったマルイ

さらにD2Cに積極的に取り組む背景として、競合他社と比較して、丸井が最も早くビジネス的に厳しくなったと、青井社長は明かします。

「都心では店の規模が大きい百貨店に、品ぞろえやブランドで負ける。郊外に行くと、圧倒的な規模で駐車場もあるショッピングセンターに負けてしまう。立地でいくと、駅ビルに負ける。当社は駅に近くにあるが、駅の上にあるところには勝てない」(同)

他社と同じ“ゲーム”をしていては必ず負ける状況で決断したのが、店の役割を変える「売らない店」というモデルへの転換でした。従来は百貨店型の「消化仕入れ」を採用していましたが、テナントと「定期借家契約」を結ぶショッピングセンター型へと舵を切ったのです。

2014年3月期は12%だった定借面積の比率は、2019年3月期には76%に到達。モノが売れなくても、安定的な収益を確保できる不動産型の収益モデルに生まれ変わりました。

[PR]NISAやiDeCoの次は何やる?お金の専門家が教える、今実践すべきマネー対策をご紹介